第13話 山には山の木を、野には野の花を ~前編~
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カロスタークがミヌミエーラ男爵家を訪れたのは昼を過ぎ、夕方に差し掛かろうという時間だった。
準男爵として動くため、いろいろと準備が必要だったからである。
服装や持ち物を揃え、新たに立ち上げる貴族家ということで紋章を選定しなくてはならないなどなど。
煩雑な手続きが山積していたのだ。
最終的にはモンモラシー男爵令嬢セザールに投げてやってきている。
「予想外に動きにくいです」
丁稚から従者にジョブチェンジしたトマが苦しそうに唸るのを聞きながら、カロスタークは紳士服の襟を正す。
「カロスターク・カロ・レッドルア準男爵様、お着き―」
ミヌミエーラ男爵家の執事が先触れするのを聞きながら、屋敷内へと入っていく。
商人として貴族家を訪問することは、これまでも何度かあった。
しかし、貴族としてとなると勝手が違う。
違和感を覚えつつ、カロスタークは慣れなければと意識して歩いた。
「どうぞ、こちらへ」
応接間へと案内され、ミヌミエーラ『新』男爵に迎えられた。
自分以上にぎくしゃくしている新米当主に一礼して、勧められたソファへと座る。
トマは後ろに立った。
これは以前から変わっていない。
向かいにはミヌミエーラ『新』男爵が。
その隣には、これでもかと着飾ったフランソワが着いた。
『婚約者を後見人にしました』という理由があるので同席は当然。
だが・・・。
「ダンスパーティーじゃないんだから、アクセサリー類は外した方がいいよ」
仕事の話をする格好ではない。
『時間』、『場所』、『場合』がめちゃくちゃだ。
ドレスは夜のものだし、アクセサリーは出先で周囲に権勢を誇るときのもの、なにより致命的なのは今後の領地経営について話す場に相応しくない。
「あ・・・」
自分を見下ろして、真っ青になるフランソワ。
そんな顔するなら、なんでそんな格好になっているんだ?
カロスタークは本気で首を捻りそうだった。
「す、すみません。私——」
妹がオロオロしだすのに合わせて、兄である『新』男爵も挙動不審になる。
「えっと。なんで、その格好なの?」
砕けた口調になって問いかけた。
ここは婚約者の実家で、相手はその婚約者と兄だ。
正式に仕事の話を始める前なら問題ない。
「い、一番きれいな私を見ていただきたくて——」
聞き取れなくなるほどのか細い声で答えるフランソワ。
驚いた顔で、一瞬動きを止めるカロスターク。
「オレの『婚約者』になるの嫌じゃないの?」
「え?」
「貴族なんだから、いやな相手とでも婚約や婚姻はするだろう。今回なんてもろに政略だ。嫌ってはいるが、社会的に仕方がないって状況だと思ってた。違うの?」
だからこそ、裏切ったし。
あの顔だったのだと思ったのだが?
カロスタークが不審がるのはそこだった。
「い、いやだなんてことはありません。本当です。ちゃんとエスコートしていただけましたし、レディとして扱ってくれましたから。以前にした見合い相手と比べたら、全然違ってて。好き、でした」
拳を握って力説される。
少し照れた顔でカロスタークが頭を掻く。
(……あのときの顔は、演技じゃなかったのか)
カロスタークは、ほんの少しだけ視線を逸らした。
「『好き、でした』ね」
「あ。それはっ——。貴族の娘として家のためには私情を捨てるものですから」
「家の利益のためには、個人的に好きな相手でも踏み台にするってことかな? わからなくはないけど。極端だな」
「私、そんなに器用じゃありません! ——あ」
思い切り叫んで、慌てて口を押えるフランソワ。
ほんのり染まる頬が愛らしい。
「あー。そうなんだ。まぁいいや。気にしないで進めよう」
わざわざ着替えるのを待つほどのことではない。
気にしなければいいのだ。
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