第11話 金剛石は石と見えて石にあらず ~後編~
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「ほ、『補助金』を——」
国務大臣の厳しい口調に、さすがに青褪める子爵。
「『補助金』は出ぬぞ」
もはや隠しもせず切り捨てる国務大臣。
「『補助金』は出ぬと?」
「出るわけがあるまい。お主は銅貨一枚たりと資金を出しておらぬそうではないか。そのような者に出す謂れなどない!」
すでに調べはついている。
語気強く迫る国務大臣。
「それは、何かのお間違いです。道の整備は私と弟が身をもって成し遂げた。資金を出し、現場でも汗を掻いたのですぞ」
貴族の身でありながら、現場に赴き作業にも参加したと主張を始めた子爵。
「異なことを!」
ここで、ずっと静観していたローブの男が立ち上がった。
「あなた方の姿を現場で見たことなど一度もありませぬぞ」
「貴殿は? どなたかな?」
役職持ちではなさそうだし、貴族にも見えない。
子爵の態度は清々しいほど横柄なものとなった。
「覚えておられぬか。現場ではなく、作業に入る前の挨拶でお会いしているのですがな。道の整備に協力した土木魔法使いの取りまとめをしていた者ですよ」
「ふん! 何者かと思えば、土木魔法使いごときが出しゃばりおって! 泥臭いローブで、このような場に出てくるでないわ!」
はっきりと蔑みの目を向けて、出て行けと手を振る子爵。
国務大臣の目が細くなり完全に冷め切ったことに気が付けなかった。
「国務大臣殿。このような下賤な者を城中に入れるのは感心しませんぞ」
鼻を鳴らして忠告めいたことをほざくが、子爵は隣で震える弟にすら気が付かずにいた。
「この者は確かに土木魔法の使い手だ」
身分の低い現場作業員ということ。
「しかし、同時に儂の部下でもある。道と町の区画に関する専門家で、伯爵家の出身でもあるのだがな? そして、ここは儂の執務室だ。国王陛下ならともかく、部外者にとやかく言われる筋合いはない」
権威主義を奉じるつもりはないが、子爵を黙らせるには有効だろうと情報を開示した。
「ぐっ——」
案の定、下手を打ったと思ったのか子爵は顔を歪めて口を噤んだ。
「そろそろ、はっきりさせましょう」
頃合いと見た政務官が静かに言葉を打ち出した。
「ミヌミエーラ子爵様、支払いはできるのですか、できないのですか?」
「————」
子爵は押し黙り、弟が力なく首を振る。
「できないのですね? わかりました、もう結構です。お帰りください」
大きくも激しくもない。
淡々とした口調でありながら、逆らい難い圧を含ませて政務官が子爵に退室を促す。
子爵は顔色を赤くしたり、青くしたりしていたが——。
「『補助金』だ。『補助金』を出してくれれば全ては丸く収まるのだ。なぜ、それが分からぬのだ!」
腕を振り回して、辺り構わず殴りつけながら喚き始めた。
「あ、兄貴。それはダメだ。それやっちゃ、おしまいだよぉ!」
弟が泣きながら縋りつき、幾度となく殴られた。
僅かな時間で顔の形が変わってしまうほどに。
結局、二人は騒ぎを聞いて駆けつけた衛兵によって捕らえられ、貴族用の牢獄へと送り込まれたのだった。
そして、カロスタークが準男爵への昇爵が決定した日の朝早く、裁きが決まる。
ミヌミエーラ子爵家は、国家に対する背任の罪で男爵に降爵。
領地も政府に半分取り上げられた。
軍に入っていて、兄たちの企みに関わっていなかった三男が家督を継ぐことになる。
当主だった長兄と補佐をしていた次男は爵位を剥奪され、平民階級へ落されることに。
取り上げられた領地は新たに昇爵する準男爵の領地として下賜されることが決定した。
この結果があっての、カロスタークの準男爵昇爵である。
また、王国政府から渡されていた修繕費用の使い込み分の返済も、カロスタークに委ねられた。
当然に領地の管理権が新しい準男爵に渡ることとなる。
形式上の理由付けは、『末妹の婚約者が後見に入る』ということだ。
国王が『婚約解消』について聞いたのは、この為だった。
解消した後、またはカロスタークにその意思があれば別の理由を探さなければならないが、その必要はなかったことになる。
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