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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【フランソワ】編~蜜があれば花はいらず、竹は地を這わず~

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第9話 金剛石は石と見えて石にあらず ~前編~

4/5

 


 ときは遡って、数日前のこと。

 国内の土木事業を束ねる国務大臣のもとに、一通の報告書が届けられた。


 ミヌミエーラ子爵からのもので、領内の道整備を行った旨を知らせるものだ。

 領内での公共事業は各領主に裁量権がある。

 なんであれ、好きにすればいいというのが国務大臣のスタンスだった。


 いちいち報告なぞいらぬのに。

 申請は法制度上必要だが、事後の報告に規定はない。

 政府が関知することではなかった。

 なんのつもりかとよくよく読むと——。


 隣の領地との間での大規模なもので、国政にも良い影響をもたらすものである。

 現にミヌミエーラ子爵領とモンモラシー男爵領の税収が上昇しつつあって、今後も増えると思われる。

 この事業の発案者は自分——ミヌミエーラ子爵——であり、事業全体を取り仕切っているのも自分である。


 これらを強調したのち、王国政府に対し『補助金』を請求する文言となっていた。

 確かに、王国政府には王国に益のある事業に助成金を出す制度がある。

 各地の領主に予算を割り振って、間接的に事業を推し進めることもよくある話だ。

 しかし、自分たちで事業を進めておいて、事後承諾で助成金を出せというのは乱暴に過ぎる。


「まて。この事業についての報告、モンモラシー男爵からも出ていたな?」

 報告書を手に考えを巡らせていた国務大臣は、そのことに気が付き近くに居た政務官に尋ねた。

 大臣の最側近であり、全体的な補佐をしている男だ。

 特定の事案に特化はしていないが、全体を俯瞰的に捉え各部署の橋渡し役に徹している。

 人体で言えば、脳と筋肉を結ぶ神経のような役割を果たしていた。


「はい。事業内容などに違いはありませんが、モンモラシー男爵からは『助成金』の話は出ておりません。また、事業の発起人として名を記されているのは商人の名で、モンモラシー男爵やミヌミエーラ子爵の名は出ていませんでした」

「おかしくはないか?」

「おかしいです。どちらかの報告に虚偽がありますね」

「どちらか、か。どちらだと思う?」

「この場合、可能性が高いのはミヌミエーラ子爵でしょう。モンモラシー男爵の報告内容ですと、偽りの報告をする意味がありません。『補助金』を請求しているミヌミエーラ子爵にはまさに『補助金』を手に入れるためという理由があります」


 動機の有無。

 犯罪を立証するのに必要なものの一つだ。


「そうだな。モンモラシー男爵の報告には疑うべきものがなかった」

 かの家の状況は2年前から知っていた。

 多額の借金で首が回らなくなり、商家の手助けでなんとか家名を維持している。

 内情は火の車だろうが、そのことで王国政府に助けを求めてきたことはない。

 問題なく領地を治めていると聞いてもいた。


 報告でも、モンモラシー男爵の果たす役割を過少とも思えるほど小さく評価している。

 かわりに、高く評価しているのは事業の発起人に名のある商人のことだ。


 その商人が男爵の妹の『婚約者』となっているから、自分の家にもメリットはあるのだろうが、それだけのこと。

 国務大臣から見れば、家を商人の妹婿に乗っ取られかけているが、それでよしとしている。

 そういうことになる。


 貴族としての誇りを感じさせないものの、それでどうというものではない。

 国務大臣が口出しするようなことではないのだ。


 そのように、自家の内情を隠すことなく晒しているモンモラシー男爵に警戒するような要素は皆無。

 妙なのはミヌミエーラ子爵ということになる。


「すこし探ってみてくれんか?」

「直ちに情報を収集してまいります」

 側近は、一礼すると即座に部屋を出ていった。


 それほど待つこともなく、結果は出るだろう。

 国務大臣は、次の報告書に目を落とした。




「結論が出ました」

 数時間で戻ってきた政務官は、すぐさま報告に入った。


「結論、なのかね?」

 情報収集に出たはずだが?

 一足飛びに結論にまで至るとは。


「事業の発起人並びに中心で指揮を執ったのはカロスターク・レッドルア。レッドルア商会の三男で、現在は学院に在学中。今期で卒業の見込みであることが判明しました。複数の証言で裏も取れています」

「その時点でミヌミエーラ子爵の主張が虚偽であることは確実ということか」

「はい。先日、整備が終わった道の開通式が行われたのですが、カロスターク・レッドルアは警備の兵によって追い返されたとのことです。式はミヌミエーラ子爵が中心となっていたとの情報もございます」

「ずいぶんと強引な手を打つものだ。バレないとでも思っていたのだろうか?」

「その式のさなか、妹のフランソワ・ド・ミヌミエーラがモンモラシー男爵を誘惑しようとして、はっきりと拒絶されたという話がございます。男爵を味方に付ければ問題ないと考えたのかもしれません」

「話しを合わせていれば、確かに発覚は遅れただろうな。それでも、発覚はする。どうするつもりだったのか」


 気付かないまま見逃すほど国務大臣の部下たちは無能ではない。

 なにを考えているのかと疑問も湧く。


「それなのですが・・・」

「まだ何かあるのか?」

「ミヌミエーラ子爵には、西方地域における要塞の修繕が任されていました。その支払いが迫っております」

「?! ——よもや、国家の金を着服して支払いが滞りそうだ、などとは言うまいな?」


 ギロリ!

 王国政府そのものに直接かかる問題となっては話の次元が違ってくる。

 国務大臣の目にも、声にも緊迫感が上乗せされた。


「報告にある『補助金』と支払いに必要な額がほぼ同じです。また、支払いは仕事が終わってから一括で払うと言い張っていたらしく、現在までまったく払い込まれていないと商人たちの証言がとれております」

「——っ!」

 状況証拠が揃い過ぎている。

 これで『白』だと思うほど、国務大臣はミヌミエーラ子爵を信用してはいない。


「——ともかく、修繕費の支払いを催促しよう。それで支払われればよし。払えないようなら、その時は・・・」



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