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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【フランソワ】編~蜜があれば花はいらず、竹は地を這わず~

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第8話 召喚状 ~後編~

3/5

 


「そなたを準男爵に推しておる」

「準男爵ですか?!」

 声が上ずった。

『目を付ける』の意味がいい方になのは助かるが、程度というものがある。


『準男爵』。


 爵位は与えられるが貴族としては認められず、身分は平民のままというものだ。

 平民なので『貴族院』には在籍できず、年間一定以上の金銭的貢献を求められる。


 もともとは未開拓の辺境を開拓させるために創設された称号で、ある程度以上の献納を可能にした地主に対して名誉を与えるために作られたという称号だ。


 貴族たちからは『平民の称号』と軽んじられるが、平民からすればそれでも『爵位持ち』には違いなく、下にも置かない扱いを受けることになる。


 だから王様が直々に出てきているのかと、カロスタークは納得する。

 叙爵は王にしかできないからだ。

 この謁見を持って、政商の推薦を是とするか見極めようというのだろう。


「それほどの功績とは思われませぬが?」

 道を整備した程度でもらえるものではないはず。

 カロスタークは慎重だった。



「今は、な」

「は?」

 含みのある発言。

 一体何を言いたいのだろうか?


「道の普請を続けてはもらえぬか」

 ああ、これからも働けってことか。

『今は』の意味を理解して、カロスタークの肩から余計な力が抜ける。


「構いませぬがどちらまで?」

 どこまで伸ばせと仰せられるのか。


「全て、だ」

「はい?」

「王国全土の道を整備せよ」

「全土、ですか。それは途方もないことでございます」

 ふたつの領地の間を整備するのとはわけが違う。

 尻込みするカロスターク。


「なればこその準男爵じゃ、爵位をくれてやるゆえやってのけよ」

 本気かよ!?

 叫びそうになるのを、カロスタークは辛うじて呑み込んだ。


 どれほど壮大なことを言っているのか分かっているのだろうか?

 実は内政音痴か?


 そんな気持ちになるが、口にしようものなら即首が飛ぶ。

 絶対権力者からのムチャ振り。

 これはどうにもならない。


「それは王命ということでよろしいのでしょうか?」

「むろんじゃ」

 当然だと、首肯される。

 王からの勅令。

 拒絶するのは不可能だ。


「なればお受けいたしましょう」

 固辞は命に関わる。

 受けねばならないのなら時間稼ぎは悪手、カロスタークは腹を括った。


 それに、王命であれば各地の領主との交渉も楽になる。

 悪くない。

 そうとでも思わなければ、やっていけない。


 国全体の大事業を押し付けられた。

 これを、どうにか儲けにつなげればいいのだ。


 『損して得取れ』。

 または、『利を見て義を思う』か。

 商人から名を成す者の『座右の銘』である。


 一方で損をしても、それを『梃子』にして別のところで儲ければ、結果的には『プラス』。

 商人としての力量が如実に出る試練だ。


 『やってやろうじゃないの』。

 カロスタークは、負担を商機に変えようと脳をフル稼働させる。


「細かいことについては、宰相から説明させる。下がってよいぞ」

「ははっ」

 深く一礼して、カロスタークは後ろへと下がった。

 王に対して尻を見せるわけにはいかないのだ。



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