第5話 蜜があれば花はいらず。竹は地を這わず ~前編~
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月日は駆け足で過ぎ去り、もうじき卒業という季節。
ついに、モンモラシー男爵領とミヌミエーラ子爵領間の道整備が完成した。
距離的にはそう長くもない。
ふたつの領地を繋ぐ物ではあるが、端と端が繋がっただけとも言える。
それでも、利便性はかなり増加した。
どちらも『領地内』の道普請には力を入れていても、領地の境目はおろそかになりがちだった。
今回はここを重点的に整備し直した形となる。
道は区間ごとに分け、できたところから利用可としてきている。
そのため、すでに成果は出始めていた。
一部ではあっても、安全で確実な区間があれば商売がしやすい。
商人からの評判は上々。
経済効果も、目に見える形で増加傾向にある。
計画は成功間違いなし。
確信をもって言えた。
今日は全線開通の日。
今後も周辺に広げていく予定ではあるが、基幹となる道路——幹線道路——の開通式。
胸を張って出席——を?
開通式の式場に入ったところで、カロスタークは足を止めた。
いや、違う。
止めさせられた。
「今日は貴族の方だけをお通しすることになっている。商人の方は遠慮していただこう」
子爵家の記章を付けた騎士が、剣の柄を握って凄んでくる。
「・・・どういうことかな?」
騎士は見知らぬ相手ではなかった。
いつも、ミヌミエーラ子爵家を訪れると応対してくれていた騎士だ。
顔を覚えていないなんてことはないはずだ。
現に、「商人の方は」と言っている。
わかっていて排除にかかっているとしか思えない。
「この事業の計画立案は私がしたのですよ。当事者抜きで式を行うと申されるのですか?」
「こんな大事業。商人風情にできるはずがあるまい?」
「できるはずがない——ですか? なら、私は何をしたのでしょう?」
「子爵様に少し協力した程度の商人が出しゃばるなと言っているのさ」
「少し――、ねぇ?」
資金全額払ったのが「少しの協力」なのかと首を傾げたくなるが、傾げはしない。
こんな短い会話でも、相手側の悪意はハッキリと聞き取れたからだ。
それに——。
騎士の向こうに、ニヤニヤ笑うミヌミエーラ子爵の姿がある。
同じ顔で笑っているフランソワもだ。
年が離れているし母親も違うから似ていないと思っていたが、こんな笑い方をするとそっくりなんだな。
カロスタークは変なところで感心してしまった。
貴族しか参加できない開通式。
カロスターク側の人間を全部排除したうえで、近隣の貴族たちに根回しをする思惑が透けて見える。
「言っておくが、事業は全て我らが当主様とフランソワ様で計画し、進めていたことになっているからな?」
公的な書類は全て子爵が用意して処理をしていた。
カロスタークの存在を隠すのなんて簡単だったに違いない。
「そういうことですか」
冷ややかに睨みつける。
ここまで言われれば、カロスタークにも裏が読めた。
金とアイディアをカロスタークに出させておいて、功績は全部奪うつもりだと。
「やってくれる」
可能性を考えなかったわけではない。
世の中、こんな話は掃いて捨てるほどあるのだから。
しかし、昨日まで愛を囁いてきていた女が、蔑む顔で笑っているというのはショックだった。
昨夜だってディナーの帰り際に両手を握り、お礼と祝辞を述べていたのだ。
「ああ。そう言えば、お小遣いを無心されて渡したんだった」
そうか、金を引き出すためだったんだ。
そう思い至り、カロスタークは人が良すぎる自分に呆れ果てるのだった。
「なにか文句でもあるのか?」
「いえ、別に――」
溜息を吐いて、カロスタークは追及をやめた。
ここで暴れたところで、数秒で無力化されて牢獄行きが確実だ。
痛い思いをして、自由を奪われるだけ損である。
「さて、どうなりますかね?」
『早馬』で帰るべく、教会に向かう馬車に乗り込んだカロスタークは、一人呟いた。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




