第4話 顔合わせ、そして計画 ~後編~
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「カロスターク。届いたわよ」
「おっと。ありがとう、セザール。いいタイミングだ」
秘書といった立ち位置で帯同していたセザールが示す方向に、荷馬車を確認してカロスタークは親指を立てた。
「仕事の慰労にと思って、酒と食い物を用意させました。仕事が終わったら、皆さんで楽しんでください。明日はお休みのはずでしたよね?」
「あ? あ、ああ。休みってことになってる。なってるが——え? 酒? 俺たちにか?」
「他に誰がいるんですか? いつも頑張っていただいてますからね。臨時ボーナスとでも思ってください」
「ぼ、ボーナス? いや、俺らに?」
戸惑う『竜鱗族』たちをよそに、カロスタークは酒宴のセッティングを進めていく。
そばにはトマだけでなく、セザールの姿もあった。
セザールは、酒宴の準備を進めるカロスタークの横顔を見つめながら、 「この人は、やっぱりすごいわね……」と、胸の奥でそっと呟いた。
「今後ともよろしく」
片手を上げ、カロスタークが去っていく。
酒宴で『竜鱗族』の働きを労い、一杯だけ付き合って。
「・・・・・・」
その後ろ姿を、『竜鱗族』の者たちは神妙な顔で見送っていた。
「どう思う? テメェら?」
代表が仲間たちを振り返り、低い声で尋ねた。
代表の名はグラズ。
青銀の鱗を持つ、寡黙な男だった。
「へ、変な人っすよね」
「まともじゃねぇよ」
部下たちが揃って首を振る。
「そうだな」
大きく頷く代表。
「さて、明日から——じゃねぇや。明後日からは仕事するぞ。今日までのことは、この酒で洗い流せ。んで、明日中に頭と体を切り替えろ。異論はあるか?」
部下たちも何も言わず頷いた。
ここ数十年、彼ら『竜鱗族』は変わらず土木工事を行ってきた。
他に仕事をさせてもらえなかったからだ。
人の町へは出入り禁止、客が嫌がるので商品の運送もさせてもらえない。
唯一させてもらえる仕事が、町の外でただひたすら土を扱う道づくりだったのである。
だが、低賃金だ。
ノルマもあり得ないほどきつかった。
発注者が現場を全く知らないため、工期がめちゃくちゃなのだ。
十日かかる距離を、二日でやれなんて命令は当たり前だったのである。
できなければ、無能、賃金ドロボー、ノロマ、と罵声を浴びせられた。
過酷である。
やってもやらなくても文句を言われるのだ。
彼等がやる気をなくすのに2年もかからなかった。
これ以降、彼等の作業時間はどんどん遅れていくことになる。
かつては一生懸命働き、わずかな休憩を挟んでまた働く、まじめな作業者だった彼らが休憩の合間に工事をするだけのサボり魔になっていったのだ。
こんなこと、普通なら即バレして仕事が来なくなるだろう。
だが、そうはならなかった。
彼ら以外に、この仕事を生業とする者がいなかったからである。
期間限定で同様の仕事をする者たちはいるが、彼等も『竜鱗族』に倣って仕事をしていた。
待遇が同じだからだ。
『竜鱗族』に「まともになんてやってられるかよ」と言われて「まったくもってその通り」となって、続いていた。
比較対象がないために、それが当たり前となって今日に至っている。
それが、変わる。
この日を境に、土木工事の速度と精度の常識が覆ることになるのだった。
「これこれ。私たちを酷使しすぎですよ」
土木系魔法使いが呆れたように文句を言ったが、仕事明けに勧められた酒で口を閉ざしたという。
カロスタークが届けた酒は、かなり上質なものだった。
魔法使いたちが、気分良く酔えるくらいには。
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