第3話 顔合わせ、そして計画 ~中編~
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予想の範疇でもあったからだ。
うまくいくかもわからないものに金は出さない。
貴族家との商売ではよく聞く話なのだ。
このくらいは想定内である。
それに——。
この道が完成すれば、モンモラシー男爵領と接する他の領地にも影響を与える。
成功例を見せつければ、次の交渉が格段にやりやすくなる。
カロスタークの視線の先には、すでに“その先”の未来が見えていた。
早く完成させて、モンモラシー男爵領と接している他の領地へ見せつけるという思惑もある。
ミヌミエーラ子爵領との間で道の整備がうまくいけば、他の領地との交渉もしやすくなるからだ。
掛けた金額以上の成果が得られると目に見える形で示せば、他も続くだろう。
「妹にはもったいない男だな、君は。——頼りにしているよ」
「ありがとうございます」
にこやかなミヌミエーラ子爵に、カロスタークは丁寧に頭を下げた。
会食の後、話はとんとん拍子で進んだ。
『資金以外』についてはミヌミエーラ子爵家が精力的に協力してくれたのだ。
領地内のこととはいえ規模が規模だ。しかも二つの領地をまたぐものになる。
王国への申請と、それによって得られる認可が必須。
これは、その地を治める領主か代理人でなくてはできない。
商家の人間でしかないカロスタークにはできないことだった。
もう一つ、カロスタークにはできないこと。
土木工事専門の魔法使いを集めることも子爵に任せた。
こういった専門家は貴族のお抱えである場合が多い。
金を出せば雇えるというものではないのである。
これにも、子爵が口をきいてくれた。
王家とのつながりも利用して土木魔法使いを集め、力仕事に長けた亜人種族も紹介してくれたのだ。
「完成したら、正式な『婚約』をお願いしますぞ? いっそ結婚式にした方がよいですかな?」
「お兄さまっ! 気が早過ぎですわよ」
「そんなことはないさ。励みになろうというものだ。なぁ、カロスターク殿」
「全力で努めますよ」
少々浮ついた様子の兄妹に圧される、カロスタークだった。
「ご苦労様!」
「これは、旦那。また来たんですかい?」
カロスタークは、時間を作っては現場に顔を出した。
進捗状況が気になったからというのもあるが、
なによりも王都にいては会うことの無い彼ら『亜人』が気になったからだ。
モンモラシー男爵領で工事にあたってくれているのは『竜鱗族』という亜人だ。
名前の通り、鱗に覆われた爬虫類のような見た目の種族で、他国では『ドラゴニュート』とも呼ばれるらしい。
祖先は竜神だったなんて話もあるが、本当のところはわからない。
外見から他の人——特に女性——には嫌われることが多いようだがカロスタークは気にならない。
むしろ、青みがかった鱗が『かっこいい』と思ってすらいた。
「順調かい?」
「え、ええ。おかげさまで捗ってますぜ」
鋭い爪の付いた指で、頬をポリポリ掻きながら答えるのは、長の息子だという代表者だ。
「こちらに来てからは、その、嫌がらせもなくなりましたので、はい」
彼らはもともとミヌミエーラ子爵領の方で仕事をしていた。
居留地がそちら側だからだ。
地元の方が働きやすいだろうと思ってそのままそちらの仕事をしてもらっていたのだが、逆だった。
ミヌミエーラ子爵領では、彼等のことを厄介者と考える者が多いそうなのだ。
力仕事などがあれば便利に使うが、労働力は買い叩かれて安賃金。
仕事を始めれば邪険にされてジャマもされる。
効率が落ちるのだという。
現場監督を任せているトマからの報告で、それを知ったカロスタークは彼らの働き場所をモンモラシー男爵領に移させ、世間一般の常識的な報酬を払う旨の条件で契約し直した。
こうして度々現場に顔を出すのは、モンモラシー男爵領でも同じことが起きはしないかと心配だからだ。
「旦那は変わってますな。俺らが怖いとか気持ち悪いとかないんすか?」
「んー? 別に何とも思わないけど?」
「おかしな方だ」
「ガキの頃、いろんな種族の『亜人』と会って話たりしてたから見慣れてるっていうか、気にならないんだよね」
実家は商家だけに、いろんな商人が訪れていた。
低賃金で雇えるってことで『亜人』を使う商人は多い。
父や兄たちは商人との商談や懇談に行くので、カロスタークはその下で働いている者たちとの交流が多かった。
物心ついたときから側にいた存在なので、怖いも気持ち悪いも感じたことがない。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




