第1話 告白
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中間試験が終わり、学院生活も残すところ半年。
この時期になると、ある“風物詩”が校内をざわつかせる。
それが——『告白』。
卒業を目前にして、婚約相手が決まっていない貴族子女たちが、焦りから動き出すのだ。
貴族社会では、血筋の維持と家の繁栄が何よりも重視される。
そのため、学院は学問の場であると同時に、“お見合い市場”としての役割も担っていた。
特に女性側の動きは活発だ。
正妻になれなくてもいい。
側室でもいい。
せめて“卒業時の婚約者”という肩書きだけでも欲しい——そんな思いが交錯する。
もちろん、告白にもルールがある。
すでに婚約が内定している者は避ける
爵位が下の者が上の者へ告白するのは避ける
つまり、「婚約者のいない、自分と同等か下の身分の者」がターゲットになる。
そして今、最も“狙われている”のが——商家出身の青年、カロスターク・レッドルアだった。
「つ、疲れた……」
自室に戻るなり、カロスタークはベッドに倒れ込んだ。
今日もまた、歩く先々で貴族令嬢たちからの“告白”攻勢にさらされていたのだ。
「今日もモテモテだったのですね」
お茶を淹れながら微笑むのは、従者のトマ。
その笑顔に、カロスタークは睨みをきかせる。
「人ごとだと思いやがってぇ……」
王立学院において、商人の子弟は最下層。
だが、だからこそ“狙いやすい”。
貴族令嬢たちにとっては、婚約破棄しやすい“滑り止め”として扱われる存在だった。
しかもカロスタークは、最近とある事情で注目を集めている。
いろいろあるが『経済的には力がある』ことが明白なのだ。
そのせいで、告白の数も跳ね上がっていた。
「よさそうな方はいらっしゃらなかったのですか?」
「いなくはないけど……」
実際、カロスタークの対応は二通り。
『ごめんなさい』と『考えさせて』。
前者は完全に断る相手、後者は“保留”という名の牽制だ。
「なら、早めに『婚約』してしまえば解放されるのでは?」
「まぁ、そうなんだけどね……」
そんな中、彼の前に現れたのが——フランソワ・ド・ミヌミエーラ。
北方の子爵家の五女。
アッシュブロンドの髪とグレイの瞳を持つ、気品と知性を感じさせる令嬢だった。
「わたくしとの『婚約』が成れば、領地経営はもっと楽になるはずよ。モンモラシー男爵領との間で流通を活性化させるの。貴方もそのつもりがあって、道の整備に力を入れているのだと思うのだけど?」
その提案は、カロスタークにとっても悪くない話だった。
告白攻勢から逃れられるうえに、領地経営にもメリットがある。
モンモラシー男爵領は『とある事情』から、カロスタークの管理下にあるのだ。
選ぶなら、彼女だろう。
「婚約、お受けします」
フランソワは、告白の場所にまだいた。
他の男に声をかけるでもなく、周囲の様子を観察していたようだ。
カロスタークの言葉に、彼女は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに微笑んだ。
「まぁ! お早い決断、うれしいですわ」
その夜、二人は王都の有名レストランでディナーを楽しむ。
フランソワの香りと笑顔に包まれながら、カロスタークは思った。
——これで、少しは静かになるだろうか。
だがこの“契約”が、 やがて彼の運命を大きく揺るがすことになるとは、このときまだ、誰も知らなかった。
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