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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【戦場にて】編~麦を植える前には土を耕すもの~

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第20話 戦後の静寂の中で

5/5

 


 ~セザール×カロスターク~


 夜の見回りを終えたセザールが、カロスタークのテント前で立ち止まる。

 中では、彼が地図を見ながら何かを考えている様子。

 ふと、彼女の気配に気づいて顔を上げる。


「どうした? もう休んでいいぞ」


「……あなたが無事で、本当によかったと思いまして」


 そう言って、セザールは湯を差し出す。

 その手が、わずかに震えているのを、カロスタークは見逃さなかった。


「ありがとう。君がいてくれて、助かったよ」


 セザールは微笑む。

 けれどその瞳の奥には、“この人を守れるのは私だけ”という静かな決意が宿っていた。


 自分が『彼』のそばにいられる理由の最大の理由がそこにある。

 騎士爵を己の手で手に入れるだけの実力があるのだ。


 この力があるから、『役に立つ女』をアピールできる。

 それが、誇りと安心をもたらしてくれる。



 ~ミーラン×カロスターク~


 翼人族の野営地。

 勝利の宴が終わり、夜風が静かに吹き抜ける。

 ミーランは、焼きたての“おおきびケーキ”を手に、カロスタークのもとへ。


「……あんた、ちゃんと食べてる?」


「ん? まあ、ぼちぼち」


「……はい、これ。ミズーリが焼いたやつ。あたしが味見したから、たぶん大丈夫」


 カロスタークが笑って受け取ると、ミーランはふいっと背を向ける。

 その頬は、ほんのり赤い。


 ……なんで、こんなにドキドキしてるんだろうかと、考える。


 背中越しに聞こえる彼の笑い声が、やけに胸に響いていた。



 ~ネルケ×カロスターク~


 捕虜となったヒルデガルドの監視任務を終えたネルケが、夜の静けさの中でカロスタークのもとを訪れる。


「閣下。……あの方を見て、思いました。私は、今まで生きていなかったのだと」


「……そうか」


「私は、閣下のもとで生きていきたい。……それが忠誠なのか、それ以上なのかは、まだわかりませんが」


 カロスタークは何も言わずに頷く。

『それ以上』というところで、少し眉が動いたが、小さく肩を動かしただけで流している。いまさら感が強かったのだ。


 ネルケは静かに頭を下げ、去っていく。

 その背中には、“自分の意志で選んだ道”への誇りがにじんでいた。



 ~フランソワ×セザール~


 翌朝、野営地の片隅で、フランソワがセザールに声をかける。

 物資や人員を引きつれて、追ってきていたのだが、『勝った』と聞いて、駆けつけてきたのだ。


「昨夜、殿下と話してたわね」


「……見てたの?」


「見えるところでやってたから」


 フランソワは微笑む。

 けれど、その笑みの奥には、静かな対抗心があった。


「私も、閣下にお茶を淹れて差し上げたの。……あなたより、少し早くね」


「そう。なら、次は私が先に行くわ」


 二人の間に、火花が散る。

 けれどそれは、戦場ではなく、心の中の戦いだった。


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