第19話 欲しいものは天候と気分で変わるもの ②
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「みんな、頑張れ」
「ともかく本陣に戻れば大丈夫だ」
俺たち以外はな。
二人はもう、自分の命は諦めていた。
司令官の『あの女』は死にかけているし、完全な敗北だ。
第五皇女が許すとは思えなかった。
帰れば首狩り祭りが始まることだろう。
だが、兵まで皆殺しとはなるまい。
「しかし、鳥頭のお嬢ちゃんのおかげで助かった」
「ああ、まったくだ。使いを頼んだ奴は『食料』が欲しかったんだろうにな」
「『荷馬車』は置いてきた。文句は言わせん」
「そうだな」
中身が空だとしても、要求には従ったのだから文句はないはずだ。
二人の指揮官が、「出し抜いた」と喜び、軽口を交わしている。
その一方で——。
◇
「うまく乗ってくれた」
ミーランも、喜んでいた。
頼まれた仕事をやり切れたのだ。
「サルどもに知恵比べで勝てましたな」
側近の男——鷹の頭——が笑いの発作に声を震わせて頷いた。
「サルって言わない。思考力が残念なだけ!」
人間をサル呼ばわりしたのでは、王国の兵たちもサルと呼ぶことになる。
それはダメだろう。
「可哀そう」
ミーランは帝国の者たちを哀れんだ。
◇
「嘘、だろ?」
「そう思いたいが・・・」
本陣へと戻った帝国軍は呆然と立ち尽くしていた。
兵たちの中には、地面に座り込んで頭を抱えている者までいる。
食糧がうず高く積み上げられていたはずの幕舎から、食料が消えていたのだ。
正確に言えば、『食料だけが』だ。
「『荷馬車』で間違っていなかったわけだ」
「ああ。食糧を積むのがやっと。他の物資は積めなかったからだったわけだ」
あはははは、と乾いた笑いがこぼれた。
『鳥頭』と馬鹿にしていた自分が恥ずかしい。
◇
このあと、帝国軍は長い議論の末、二手に分かれることになる。
食糧がないのだからどうにもならないと、帝国へ引き返そうとする一派。
食糧なしで帝国に向かったところで間に合わない。
それなら、このまま王国の町へ攻め込む方が生き延びる可能性がある。
そう考える一派。
二人の指揮官が選んだのは、帝国を目指すことだった。
彼らは王国の地理を知らない。
町を探している間に餓死の可能性があったからだ。
その点、帝国領に戻れれば町の場所を知っている。
最短距離で進める分、効率がいい。
だいいち、ゴールがちゃんと見えているだけ気が楽だ。
帝国へ向けて引き返す者6万余。
王国へと進む者3万余。
正しい道がどちらだったか?
答えは、この五日後に出た。
◇
王国国内では、『第四軍』が待ち構えていたのである。
宰相が約束していた後詰の軍だ。
カロスタークは『翼人族』に依頼して、状況報告と偵察を密にしてある。
王国内へ向かった帝国軍の動きを逐次伝えていたのだ。
空腹を抱えて五日間歩いた兵と、万全の体勢で待ち構えていた兵。
結果は見えていた。
序盤こそ、「あれを踏み倒せば飯が食える」と勢いに乗った帝国軍だが、その勢いは30分と持たなかった。
勢いが落ちれば、突撃しか頭になくなっていた兵たちは左右からの挟撃にあい、壊滅することになる。
「降伏すれば、飯ぐらい食わせてやるものを」
バカな奴らだ。
『第四軍』の司令官は、呆れたように首を振った。
どこぞの貴族軍だったらしい3万の兵たちは、遮二無二突撃を繰り返して全滅していた。
「降伏という選択肢を知らなかったのかもしれません」
副官も憐れむように首を振った。
敗北を認めない軍隊というのは歴史的に珍しくない。
自分たちが敵に容赦しないがゆえに、自分たちの行動にも余裕を持たせていないのだろう。
だから、再三の降伏勧告にも耳を貸さずに突撃を繰り返したのだと思われた。
「敵軍約四万を殲滅——か、十分な功績ではあるな?」
「そうですね。王国ではここしばらく大きな戦闘がありませんでしたから。実戦経験を積み、しかも万単位の敵を撃破したのです。宰相閣下にも胸を張って報告ができます」
「第三軍のシャリィアの次に、ではあるだろうが他の軍団長からは頭一つ抜けることになる」
「ええ。出世が期待できます。あとは・・・追い詰められた帝国が、何かしら抵抗をしてくれれば——」
今のところ、帝国との戦争での功績は第一に『第三軍』、次が『第四軍』となる。
しかし、帝国へと反撃に向かった『第三軍』が痛手を受けるようなことがあれば・・・。
総合的に『第四軍』の評価が上回ることもあり得た。
「味方の失策を望みはせぬ。が、万一に備え、我らも北上すべきだな?」
「ええ。第三軍からは別段のサポートを要請されてはいませんが、後詰を拝命しているのですからあとについて行き、万一に備える義務があります。もしもの時は、きっちりと手をお貸しになるとよいでしょう」
こうして、王国軍の後詰『第四軍』三万もまた帝国を目指して進むことになる。




