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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【戦場にて】編~麦を植える前には土を耕すもの~

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第18話 欲しいものは天候と気分で変わるもの ①

3/5

 


「あ、あれです!」

 指を差された先、確かに大きな塊が飛んでいるのが見えた。


 手や足、頭がある。

 翼も。


 『翼人族』三人で、一人の人間を支えているようだ。

 その人間が、胸元で手を向かい合わせにしている。

 その手の中に、火球が生まれるのが見えた。


「また来るぞ!」

「伏せろ!」

 慌てて指示を出し、自分たちも下馬して地面に身を投げ出した。


 数秒の静寂。

 そして爆発音。


「ん?」

 首を傾げた。


 爆発音が遠い。

 衝撃がほとんどなかった。


「あ。あ、ぁ、あ、ぁ、あ——」

 相方が、断続的に声を零している。


 なにが?


「————」

 視線を追って、絶句した。


 火柱が立っている。

 いや、これは予想していた。

 問題は場所だ。


 荷馬車の列を越えた先、進行を防ごうとでも言うような場所に立ち上っていた。

 驚いた馬が暴れたのだろう、何台かが横倒しになっている。


 馬は元来臆病な生き物だ。

 だからこそ逃げるため、走ることに特化している。


 特にダメなのが『大きな音』。

 そして『炎』。


 恐慌をきたすには充分な状況だ。

 荷馬車隊が、列を乱している。


 馬の混乱はそのまま荷馬車の動きにつながる。

 荷馬車からは次々に完全武装の重装兵が吐き出されていた。

 重量物を身に付けて、荷馬車から落ちる。

 そこには悲惨な未来しかない。


「クソっ!」

「ざけんな!」

 恐怖と混乱を無理やりぶっちぎり、何人かの兵士が弓を番えた。

 空にいられては剣も槍も届かない。

 しかし、弓なら届く!


「ギャッ!」

 悲鳴が上がった。


『上がった』のだ。

『落ちた』のではない。


 弓を番えた兵士の肩に、矢が生えていた。

 鏃が下を向いている。

 それも、ほぼ直角に。


 上から射られたものだ。

 数十に及ぶ『翼人族』が上空にいた。

 手には弓、背中にはずっしりと詰まった矢の束がある。


 機先を制された。


「だからなんだ!」

「こっちの方が数は多いんだぞ!」

 体勢を立て直した兵たちが、弓を執って矢を放った。


「無駄だ」

「え?」


『翼人族』は『風』を操る。

 妨害することなど容易い。


 しかも、『上』にいるのだ。

 下からでは威力も速度も下がる。

 逆に、『翼人族』からの矢は勢いを増す。


 状況は一方的だった。

 そこへ――。


「攻撃をやめよ。命まで取るつもりはない」

 よく澄んだ声が、戦場を駆け抜けた。

 敵が発っしたものだ。


「どう思う?」

「何か交渉の余地があるということかな?」

「交渉? 食料か?」

「おそらくな」

 一方的な劣勢の中、短いやり取り。

 それでも、決断は下さなくてはならない。


「戦いをやめろ!」

「戦闘中止!」

 二人の中級指揮官たちが声を上げ、下級指揮官が全軍に伝えていく。

 僅かな時間で、戦闘停止命令は全軍に行き届いた。



「それでいい。ムダに争うつもりはない」

 鎮まったのを見計らい、一人の『翼人族』が下りてきた。

 現状で最高位の指揮官である二人の前にピンポイントで。


 女性、いや、少女だ。

 こんな殺伐とした場所にいるのが不思議なほど、細く小さい。


「な、なぜ、私たちの下に?」

 迷いもせず目の前に降り立たれたことに疑問が出た。

 偶然ではないだろう。


「上から見てた。混乱したとき、真っ先に声を上げて命令を出すのが、指揮官」

「ああ、それはそうだな」

 指揮官とはそういう存在だ。いや、そういう存在でなくてはならない。


「それで? 目的は?」

「荷馬車を置いてってもらう。そうすれば、それ以上は望まない」


「っ?!」

 指揮官二人は、互いに視線を向け合った。

 ある意味、予想通りの交渉が行われている。


「荷馬車を、ですね?」

「そう。荷馬車を」

 確認したのに対して、少女は小鳥のように首を縦に動かした。



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