第17話 乗る船が同じでも、行先まで同じとは限らない ②
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『指揮官クラス』の場合。
「賭けだ」
「賭けか」
指揮官クラスも、馬上で似たようなことを話していた。
「王国軍のやつらが、こちらに来るかあちらに行くか」
「あちらに行けば俺たちの勝ち、こちらに来るなら俺たちの負けってことだな」
「そうだ。あちらに食いついてくれれば即座に駆け付け、背後から襲って俺たちの手柄にする。逆なら、まぁ、逆だ」
「本気で賭けだな」
「戦場で功名を得るってのは、そういうことだろ?」
「確かにな」
帝国軍も、いくつかの部隊の集合体である。
大小の部隊にいる指揮官クラスの者たちによる協議制で、部隊の司令部は動いていた。
中でも地位が高く、経歴の長さも同等の二人が統制を執っている。
ただ、彼等が部隊の最上位かと言うと、そうではない。
「あらあら、作戦行動中におしゃべり? 余裕があってよろしいこと」
二人の後ろに、するりと馬を進めてきた者が声をかけた。
「っ!」
「ぐッ――」
途端に口を噤んで顔色を変える二人。
声をかけてきたのは女性だ。
見事な金髪をなびかせて、白馬に乗っている。
戦場にあるまじき優雅さだ。
名のある貴族の令嬢である。
帝国内に盤石の権力を持つ侯爵家当主の孫にあたる人物だ。
そのため、第五皇女とも対等とまでは言わないが、まともに会話を成立させられる立場にいた。
この、『東に大きく寄って進む部隊』の指揮官に就任しているのもそれがあってのことである。
「わたくしのお兄さまも軍人ですけれど、もっと規律正しく隙など見せませんわよ」
「は、はは。すみません」
「身につまされます」
言葉面だけならば、柔らかく丁寧。
だが、その視線には蔑みが、声には嘲りがたっぷりと込められている。
嫌味な上官、それだけの人物でもあった。
「まったく、反省なさい」
わざとらしくため息をつく。
溜息を吐きたいのはこっちだ。
心の中で、指揮官二人は呟いた。
彼女のせいで、彼等の同期の何人かは軍を辞めたり降格されたりしている。
その分の仕事が、二人や他の者にのしかかり心身を病む者が出ていた。
今回の遠征でも、部隊間の連携を阻害する要因となっている。
もともとは、第五皇女に対する制止役として期待されていたのだが、今や完全なイエスマンで制止役は機能していない。
「あなた方の無能ぶりには、ほとほと呆れかえるわ」
首を振りながら、クドクドと説教が始まった。
◇
◇
◇
◇
「まぁいいわ。その分、戦闘では活躍してくださるのでしょうから。ああ、そうだわ。あなた達に先陣をお願いすると致しましょう。最前列に立って、敵に突撃なさい」
それは、指揮官のすることではなく、末端の歩兵がすることだ。
軍人の兄がいると言いつつ、戦術も戦略も解さない『お飾り』が!
「それはいい!」
「戦功を立てる好機をお与えになるとは、なんと慈悲深いことか」
女の取り巻きどもが囃し立てて嘲笑した。
「しょ、承知いたしました」
「武功を立ててまいります」
内心の憤りを押し殺し、二人は馬を蹴って前へ進めた。
他の指揮官クラスの者たちに、うしろめたそうな視線を投げかけられながら。
◇
「うまく行った、と言っていいいのかな?」
「いいんじゃないですか?」
最前列に立った二人は、互いに肩をすくめた。
彼らが目をつけられたのには理由があった。
目につくような位置で、目につくような声で会話をしていたのだ。
自分たちよりも立場が低く若い、他の指揮官たちに矛先が向かないように。
こうした行軍では誰かしらを不満の捌け口にして攻撃するのが、あの女の習性なのだ。
自分たちは長年の軍生活でパワハラにも慣れている。
パワハラとさえ言えない、あの女の傲慢さにも耐性があった。
だが、若い奴らでは、あっという間にメンタルを削られてしまう。
だが・・・。
「自己満足、だな」
「ああ、意味はない」
一時的に盾になったってだけのこと。
残された奴らも、今頃はチクチク嫌味を言われていることだろう。
デカいのを引き受けたと言えば聞こえはいいが、さっさと退場して楽をしただけとも言える。
最前列にいれば、戦いが終わるまでは安全だ。
こんなところにもあの女が出張ってくることは絶対にない。
命の危険はあるが、そんなのは今更だし。
我ながら度し難い。
自嘲する二人の顔が、天を仰いだ。
その上を、影が通り過ぎた。
直後——。
爆音が響いた。
地面が揺れる。
「な、なにが?」
後ろを振り返って呆然とした。
火柱が上がっている。
軍列の中央だ。
さっきまで、彼等がいた位置である。
「魔法が!」
「部隊長が吹き飛ばされた!」
若い指揮官たちが必死の形相で馬を駆り、近づきながら報告を投げ寄こす。
「部隊長が?!」
あの女が?!
いや、その前に!
「お前たちはどうして——」
無事なんだ?
なぜここにいる?
「私たちにも先頭で突撃しろとの命令があったのです」
「取り巻き連中だけを残して」
「他は——俺らは目障りだったらしいですよ」
「おかげで助かりましたけどね」
そういうことか!
「で、なにがあった?」
どうしたら行軍中の軍隊で、中央だけが吹っ飛ぶなんてことが起こるんだ?
「俺、見ました。『翼人族』です。『翼人族』が数人飛んできて、そこから魔法が!」
一人の若者が答えた。
「『翼人族』が使う魔法は『風』だったはずだが?」
火を使うなんて聞いたことがない。
「人間の魔術師を連れて飛んでたんです! 二人か三人かわかりませんけど何人かで協力してたんだと思います。ひと塊になって飛んでた!」
「なっ?!」
そんなこと、できるのか?
信じがたい話だ。
だが、信じるまでもなかった。




