第14話 逆転と反転 ①
4/5
王国軍第三軍とミヌミエーラ男爵領騎士団の混成軍——所属する兵たちはいつの間にか『レッドルア軍』と呼んでいた——は当初の目的を果たして第五皇女を捕らえた。
皇女の直属部隊も無力化に成功したわけだが、動きを止めてはいない。
わずかな休息を入れただけで、すぐに行動を開始していた。
「問題は足りるかどうかだな」
腕組みをしたカロスタークが、独り言ちた。
視線の先には空の荷馬車がある。
それも数十台という数だ。
物資の運搬に使っている荷馬車のほぼ全てだ。
戦争中の物資補給のために用意していたものである。
近隣の町や村から余剰の食糧などを集めるためのものだ。
戦争が長引いた場合に、近隣から買い集めるのに使うための物となる。
その食糧が、二人の商人に買い占められていたことで使いようが無くなっていた。
しかし今、この荷馬車が活躍する状況ができている。
帝国軍の総司令官だった第五皇女ヒルデガルドが立てた作戦のおかげだ。
その作戦とは、王国軍が補給物資の供給が途絶えるとの情報を基に考えられている。
物資——食糧——が無くなりそうな軍隊の前を、敵の補給部隊が横切ったらどうなる? というものだ。
もっとも確率が高い行動は、襲撃して鹵獲するというものになるだろう。
敵の物資を失わせ、自分たちの元には食料を手に入れられるからだ。
そこで、荷馬車の中に完全武装の兵を忍ばせて陽動部隊を作り、敵に襲わせたところで受け止める。
補給部隊に化けていた軍が持ちこたえている間に、全軍で包囲して叩く。
盗賊団や山賊討伐でよく用いられる古典的な作戦である。
しかし、飢えを前にした相手には効果抜群の策だ。
そう。
『飢えを前に』していたら、だ。
不安と焦燥に捕らわれていれば、多少のリスク——罠ではないかとの不安——があったとしても襲撃を回避する術がない。
司令官に『罠だからやめよう』と考える冷静さがあったとしても、兵は冷静さを保てない。
罠が発動し、大敗することになる。
だが——。
カロスタークは『飢えを前に』はしていなかった。
食糧の目途はついていたし、そのことは兵にも告げていた。
もちろん、疑う者はいた。
しかし、『翼人族』が疑いを払いのけた。
『翼人族』はその移動速度と範囲の広さから『亜人の町』を中心としたオオキビ畑の広がりと食糧倉庫の建設も目にしている。
だから、自信をもって「いっぱいあるよ?」と言えたのだ。
司令官の演説や説得よりもミーランの一言の方が重く、兵たちは食糧補給が確実にあることを信じた。
ゆえに、罠は不発。
レッドルア軍は一糸乱れぬ統制を維持して、針の穴を通すような『敵本陣への急襲』という作戦を成功させた。
それがどういう意味を持つか?
本陣からさらに奥——帝国側——、夥しい数の天幕がある。
帝国軍兵站部隊だ。
彼らが管理する天幕にある食料の山。
それが答えだ。
兵を忍ばせるためには空の荷馬車が必要だ。
だから、載せられていた物資を全て下ろさなくてはならない。
下ろした中身が、そこにある。
帝国遠征軍のための物資がだ。
これをもらい受ける。




