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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【戦場にて】編~麦を植える前には土を耕すもの~

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第15話 逆転と反転 ②

5/5

 


「兵站部隊の数は約3万。兵士として訓練は積んでいますが、戦闘力は高くありません」

 傍らに立ったネルケが情報をくれる。

 部下を人質に従わせているマルガリータと異なり、彼女は率先してカロスタークの役に立とうとしているようだ。


「説得は可能?」

 3万と言えばレッドルア軍の総数の半分。

 戦闘できない戦力差ではないのた。

 彼らは孤立しているが、背後に物資を抱えている。

 味方の助けが必ず来るのだ。


 彼らはそれを知っている。

 必死の抵抗をされている間に、周囲に散っている十数万の兵に囲まれてはたまらない。


「あの・・・彼らの処遇はどうなりますか?」

「ああ。そこは気になるよな。・・・武装を解除したあとは停戦か終戦が確定するまで労役を課すことになる」

 反抗や逃亡ができないようにロープで手足の動きを制限、見張りを付けて働かせるということだ。


「とりあえずは荷馬車への積み込みをやってもらう。あとは、乗り切らなかった場合は彼らに背負ってもらう」

「そういうことならば、説得は容易だと思います」

 ホッと息を吐いて、ネルケが保証した。


「よし。なら、使者を頼む」

「はい!」

 戦闘せずに無力化できるのなら、それに越したことはない。


「ああ、待て」

 早速出ようとするのに声をかけて止めた。


「もし、渋るようならこう伝えろ。『お前たちの行動に第五皇女の待遇がかかっている』とな」

 敵国への投降。

 あとあとのことを考えて、すんなりとは受け入れないかもしれない。


 だが、『人質』を盾にされれば?

 第五皇女の御身のため、という大義名分を与えれば?


「それなら、即決ですね」

 小さく笑って、ネルケは頷いた。


 ◇


 結論から言えば、兵站部隊の隊長は即座に投降した。

 皇帝への忠誠と自己保身が結託、軍人としての責務と国益への影響という懸念を脇へ置いての判断だ。


 皇帝の愛娘が人質になっていて、倍の兵で囲まれている。

 感情とか義務感で突っ走るような脳筋でない限りは、そういう判断になるだろう。

 まして、数字が命の兵站部隊隊長なのだから。


 ただ、帝国軍の物資を全て荷馬車に載せることはできなかった。

 全体の六割というところだろう。

 絶対的に荷馬車が足りていなかった。


 王国第三軍とミヌミエーラ男爵領貴族軍、セザール騎士団の総勢約五万のための荷馬車なのだ。

 マルガリータ軍他、分隊と自身も含めれば20万からなる軍を支える、帝国兵站部隊とは規模が違い過ぎた。


 兵站部隊の兵にも背負わせたが、荷馬車と人では違い過ぎる。

 持たせられた量は誤差の範囲でしかなかった。


「ま。問題はないけどな」

 カロスタークがニヤリと笑った。


『物資』の六割。

 さて、物資とは何か?


 軍隊とは人の集団である。

 戦うために集められ、統制された集団だ。

 その集団が必要とするものとは?


 武器や防具の予備、消耗品の矢、メンテナンスの道具、兵士のための服や衣料品、薬品などの医療品、野営の道具にその他の雑貨。

 そういったものも含むのだ。


 そして、当然の食糧と水。

 今回、カロスタークが押さえたいのは食糧のみ。

 10割もいらないのだ。

 食糧以外は無視していいのだから。


「では、出発!」

 シャリィアとミヌミエーラ男爵に指示を出す。

 セザール騎士団は指示を出すまでもなく、カロスタークに付き従うので問題ない。


 かくして、通称レッドルア軍は帝国方面に向けて北上を開始した。



読了・評価。ありがとうございます。


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