第13話 蜂を、蟻は知らず ②
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「情報通りだったね」
カロスタークが軽く伸びをして呟いた。
作戦がうまく行ったとミーランから連絡が入ったのだ。
「そうですね」
セザールが拍子抜けしたような顔で頷く。
「お手柄だよ?」
「クッ——」
二人とともにいる人物が、顔を歪めた。
マルガリータだ。
帝国軍総司令第五皇女ヒルデガルド。
彼女の性格や行動パターンなど、重要な情報を提供してくれた協力者だ。
部下たちの命と引き換えに、自国の姫を売ったことになる。
◇
「お疲れ様です」
実働部隊と合流。
カロスタークは、シャリィアとミヌミエーラ男爵を労った。
「なにもしてはいないがな——いや、していませんが」
自分の立場を未だ確立できていないようで、シャリィアは発言を微妙に訂正する。
王国第三軍の指揮官として『軍事行動中は最高位司令官』という態度をとるべきか、失態を演じた愚者としてカロスタークの下に就く態度でいるべきか迷いがあるようだ。
「今回は直接接触したミヌミエーラ男爵の功を讃えるべきでしょう」
「そうか? まぁ、そうだな」
自分の背後にいるセザールを見て、ちょっと顔をひきつらせたシャティアにカロスタークは頷いて見せた。
「功なんてものはありませんよ。圧力をかけた途端総崩れでしたからね。まぁ、なぜか死に急ぐ者たちが多くて、これには閉口しましたが・・・」
「死に急ぐ?」
「ええ。死にたいというのではなく、生きることを諦めている感じでしたね」
「どういうことだろう?」
首を傾げるカロスターク。
その視線が、セザールの横に控えているマルガリータに向けられた。
帝国兵の行動に詳しいとしたら彼女だ。
「皇帝が第五皇女を溺愛しているのは有名な話なの。その皇女の側にいながら、捕縛を止められなかった。帝国に帰っても居場所なんてないのよ。ヘタに生きて帰れば家族にまで迷惑がかかる。いっそ、必死に抵抗して『名誉の死』の方が都合いいわけね。とは言っても、命を捨てて守りたいほどの忠義もないから積極的に死ににも行けないんだわ」
「ああ、なるほどな」
それはわかる、とカロスタークは頷いた。
商人には馴染みのない考え方だが、貴族や軍人にはよくあることだ。
「少し、話してみるか」
◇
合流したばかりではあるが、カロスタークはすぐに捕虜の下を訪ねた。
シャリィアとミヌミエーラ男爵には、今後の行動指針を与えて準備をさせている。
「君が代表か?」
両肩にタトゥーのある者に声をかけた。
カロスタークの来訪に真っ先に反応したのが、彼女だった。
「ヒルデガルド様の下で副官を勤めていた。ネルケと言う」
「そうか。早速だが、君たちの嘆願を受け入れるつもりだ。仲間の行動に目を配るように」
「なんのことだ? 嘆願?」
そんなことをした覚えのないネルケという副官が眉を寄せた。
「戦端を開き、実際に王国内へと攻め込んできた司令官の皇女は斬首が妥当だ。禍根を断つため、第三軍司令シャリィアは斬首を命じるところとなる。しかるに、部下である君たちは皇女の助命を願い出た。自らの自由と命を代償に差し出してな」
存在しない嘆願の過程を、カロスタークは説明していく。
「皇女の命と君たちの命では本来話にもならない。斬首は行われるところだ。しかし、第三軍を支えてきたレッドルア伯爵は変わり者だ。商人だからな。嘆願を取引と捉えて検討したのだ」
自分を指さして笑う。
「検討した結果。君たちを王国国内限定の配下に置くことを条件に、第三軍司令に口添えをした。罪一等を減じての国外追放。早い話、帝国に対して身代金と賠償を請求するための人質として生かそうというわけだな」
戦場で有力な将軍や貴族を捕らえた場合に行われる通常の対応にするということ。
「この件は確実に皇帝なり宰相なりに伝える。皇女の命を救おうという君たちの健気さをな」
どうだ?
文句があるかと、無言で問いかけた。
「ッ!?」
唇を嚙み締めたネルケが跪く。
衝いた膝は、ヒルデガルドの前にいた時とは逆だった。
「ご厚情に感謝する」
短い言葉。
だが、思いが乗りまくっていた。
白皙の頬に、透明な滴が線を描く。
帝国第五皇女ヒルデガルド親衛隊2118名はここに消滅し、セザール騎士団預かりとなる。
◇
捕虜の扱いが定まったが、カロスタークは皇女自身には会わなかった。
必要を感じなかったのだ。
監視の役に就く者に「死なせるなよ」と言葉を投げただけで引き返している。
理由は——。
「さて。司令を失った帝国軍は、どう動くのかな?」
帝国軍本隊の大多数——9万8千——は未だ健在。
戦いを続ける気なら、続けられるだけの数がある。
戦いは未だ終わっていない。




