第8話 パンがないならケーキを食べればいい ③
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「おおきび、ねぇ」
領主館の食堂で、ミザーリが首をひねった。
「聞いたこともなかった作物だよ」
「これを、周辺の放置されている土地で育てさせる。三か月で収穫となるそうだから、それまでに食べ方を開発してほしい」
放棄された土地とは、自給自足を目指して鍬を入れてはみたが畑とまではならなかったという土地のことだ。
植えたとしても水を確保できないとそもそも植え付けを行わなかったとか、植えてはみたものの水不足で作物が枯れてしまったとか、そんな土地のことである。
ようするに、空いているのに何も植えられていない土地ということだ。
「食べ方って言ったってよ。煮るとか、茹でるとか焼くとかだろ?」
ライアンが、訳が分からないと首を振った。
どうやったって変わらないだろ、と言いたいらしい。
「そうじゃなくて・・・。たとえば、小麦と9対1で混ぜ合わせてパンを作っても小麦10で作ったのと遜色がないなら、それだけで小麦の量が一割増えたのと同じ結果になるだろ? そういうのを探してほしいんだよ」
「ふむ。やりたいことが理解できたよ。おおきびをメインにするということではなく、他の食材の嵩増しに使えればいいって発想だね」
「そういうこと。頼めるかな」
「それが仕事じゃないか。やらせてもらうよ」
そのために雇っているのだろ? とミザーリが力強く請け負った。
「頼もしいな。期待してるよ、ミザーリ」
「ふふ、そんな顔で見つめられたら、期待以上の成果を出さないといけないじゃないか」 ミザーリが冗談めかしてウィンクを飛ばすと、カロスタークは苦笑いで応じた。
その様子を見ていたセザールが、スプーンを置く音をわざとらしく大きく鳴らした。
「……あまり、期待しすぎないでくださいね。失望するのは、いつも伯爵のほうなんですから」
「おや、こんなおばさんに嫉妬かい? かわいいねぇ」
「嫉妬なんてとんでもない。ただ、伯爵の胃袋の安全を守るのも私の役目ですから」
「ふふ、じゃあ今度はあなたの舌も満足させてみせようか」
「結構です」
「……ははは、仲良くしてくれよ、二人とも」
カロスタークは額に手を当てて笑ったが、どこか居心地悪そうに視線を逸らした。
ミザーリの性格が垣間見えて、今後に暗雲を感じたのだ。
「ともかく、光明は見えたな」
領内の食糧自給率アップを目指すのだ。
ぜひ頑張ってほしいとカロスタークは全力でエールを送った。
◇
数日後。
「マジか!?」
カロスタークはその光景に目を見張った。
昨日までは岩が突き出し草も生えない灰色の荒野だった土地が、今や畑になっていた。
『亜人の町』から少し離れた土地である。
利用価値もなく放置されていたものであるが、平地なのだ。
木も生えていない。
開拓しても何ら問題のない土地なので、『おおきび』を大々的に植える耕作地としてどうかと考えたのだが・・・。
確か、その考えを伝えたのは二日前のはずだった。
たった二日で・・・いや、実質は一日だ。
頼んだのが二日前の夕方近い午後で、今は朝の早い時間なのだから。
一日で、これか!?
「すごいじゃないか、ライアン!」
指揮を執った料理番を褒めた。
「たいしたことじゃねぇよ」
ライアンが照れ笑いをする。
めったに見ない表情だ。
「岩の排除は洞窟から出てきた『ノーム』たちがやってくれやしたんでね」
視線で示された先で、『ノーム』——身長120くらいで腰の曲がった年寄りのような風貌の小人——が、土の中から石を浮かび上がらせて四角いブロックに変えていた。
人数は意外に多く、百はいそうだった。
普通なら、一個一個土を掘って拾わなければならないものが、手をかざすだけで土の中から浮かび上がってきて処理しやすい大きさと形にまとめられていく。
速度も半端なく速かった。
これなら、畑の石拾いなんてすぐに終わるだろう。
「で、俺らは俺らで、太古の昔から土堀が得意なんすよ。二メートルの深さまで掘り返す程度のことはなんということもねぇやな」
ヘビの体と鍬をもった腕で、土を掘るようだ。
「まぁ、掘り返しただけなんで柔らかくはなってやすが、畑と呼ぶには痩せすぎですぜ?」
掘り返しただけで肥料などを入れての畑作りはしていないのだと、謙遜する。
それでも、すさまじいことなのは確かだった。
練兵場数個分の広さの荒れ地が、今や畑候補なのだから。
それどころか、植えるのが『おおきび』であれば、このままでも十分な耕作地である。




