第6話 パンがないならケーキを食べればいい ①
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それは、ミーランが『翼人族』の族長に就任したあとのこと。
カロスタークも正式に旧リヴィエール伯爵領西部の領主となった頃のことだ。
領主となって最初に考えたことは食糧確保だった。
『亜人の町』だけでなく、旧リヴィエール伯爵領の西側が丸々所領となった。
当然ながら人口が増えたことになる。
それだけであれば、領主が変わっただけなので問題ない。
誰もいなかった土地に人が流入したのではなく、元から人が住んでいた町の所属が変わっただだからだ。
今まで通りに生活させればいいだけのこと。
問題なのは、『亜人の町』が存在する地域の領主がカロスタークになった点だった。
『竜鱗族』を使っての街道整備で定評を得たカロスタークが、本格的に『亜人』たちの庇護者になることが王国中に知れ渡ることになる。
そうなれば、王国中から『亜人』たちが集まることは予想できた。
というか、指摘された。
エルフの長に。
規模がどれほどになるかは未知数ながら、人員の流入は確実だと言われたのだ。
人員の流入で真っ先に直面する問題。
それが食糧問題である。
だから、周辺の荒れ地でも育つ食料となるものはないだろうかと、情報を集めたのだ。
各地の商人仲間にも頼んで探してもらっていた。
「一応見つかりました」
ダメもとでのことだったのだが、声をかけた行商人の一人が訪ねて来て植物の種らしきものを見せてくれた。
エルフの長が用意してくれた領主館の客間で、向かい合わせに置かれたソファに丸テーブルをはさんで座ってのことである。
丸テーブルの上には白磁の皿があり、さらにその上に白い粒が載っていた。
カロスタークはその粒をつまむと、部屋を照らしている燭台の明かりにかざした。
粒は真ん丸で、大きさは麦の半分くらいである。
「これ、ですか」
「そうです。『おおきび』という穀物の一種になります。王国ではなじみのないものですが、西の方の山岳地帯で採れる穀物だそうです。乾燥に強く、ほとんど手をかけずに育てられるということで、山岳地帯に住む者たちが食糧の足しにしているとか」
おおきび、雑穀として知られるキビの一種ということだろうか。
「収穫に適した季節とか、収穫までの期間とかはどうですか?」
「季節はあまり関係ないようです。雪が降らない間ならいつでもよくて、植え付けてから刈り入れまでは約三か月とのことです」
三か月。
小麦の半分以下、あるいは三分の一ということになる。
いや、雪さえ降らなければいいのであれば、一年で四回の収穫が可能かもしれない。
収穫量にもよるが、食糧不足問題には朗報だ。
量的には。
「味はどうですか? 食感とか」
カロスタークが質問すると、行商人は記憶を呼び覚ますように目を閉じて答えた。
「煮たものを食べたことがありますが、麦と比べるとやはり落ちます。不味いというより味がないのです。食感は弾力があって、歯切れがよい。西方では挽いて粉にしたあと粥にして食べるのが主流のようです」
あまりお勧めはできない、そんな口調と表情で答えが返ってくる。
しかし、カロスタークは笑みを浮かべていた。
少し落ちる程度なら問題ない。
「どんなものであろうとも、穀物が手に入るのは大きいです。これ、仕入れることはできないものでしょうか?」
「現物を手に入れてもらった商人が、少量では商売にならんと言うので脱穀前の物を50キロ袋で30袋、買い付けてはありますが・・・」
「それを全部譲ってください。とりあえず植え付けてみないとわかりませんからね」
「もちろん、かまいませんとも」




