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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【戦場にて】編~麦を植える前には土を耕すもの~

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第5話 道があると知れば、誰もが道を歩く ②

5/5

 


「実家を切り捨てよと?」

 モンモラシー男爵領に商圏を置いているレッドルア商会に取って代わろうということだ。


「切り捨てることはありませんわ。これまで通り、モンモラシー男爵領で商売をなさればよろしい。利益の半分を上納していただきますけれど」

「レッドルア商会を傘下に置くと? ずいぶんと大きく出ましたね」

 レッドルア商会はモンモラシー男爵領全域での取引を行っているだけあって、小さくはない。

 先代のせいで隆盛を誇っていた頃の勢いはないが、それでも地方の商家として見ればかなり大きい部類だ。

 それを傘下に置くとなれば、王都に店を構える大商人と肩を並べられるような影響力を持つことを意味している。


「ええ。そうですね。そこで、モンモラシー男爵に私を紹介していただきたいのです。妻としてね。もちろん、第一夫人にとは言いませんわ。第二か第三でよいのです。いかが?」

 セザールに妹を見るような視線を向けて、女商人は口を三日月形にした。

 商人の顔が、飢えた獣の貌になる。


 とんでもない野心家だ。

 カロスタークは舌を巻いた。

 一足飛びに貴族家を牛耳り、大商人の座に駆け上がろうとしている。


「はぁ」

 壮大さに思わず溜息が出る。


「気落ちなさることはありませんわ。今後はちゃんと意見も聞きますし、うまくやっていくつもりですから」

 カロスタークの溜息を見て、敗北を受け入れたものと解釈したらしい。

 女商人は優し気に声をかけた。


 共存共栄。

 ここではムチャを言い追い詰めるけれど、今後の付き合いは良好なものにしていくと言っているのだ。

 全てを思い通りにしようという愚か者ではないらしい。

 チャンスを全力でものに、それも最大限の物を手にしようとしているが、支配しようとまではしていない。

 持ちつ持たれつでやっていこうとの提案となる。


 もっとも、そんなことを許すカロスタークではない。

 このやり方は言うなれば、力ずくで攻め落として戦争の惨禍により大量の犠牲者を出しておいて、そのあとは善政を敷くから黙って併呑されろというのと同じだ。

 あるいは、女性を無理やり犯して妊娠させ、既成事実を盾にして結婚を迫るようなものと言い換えてもいいだろう。

 その後の生活がいかに裕福で、満ち足りたモノであったとしても——それができるなら無理やりでなくても口説きようはいくらでもあるはずだから事実上あり得ないけども——暴力で尊厳を踏みにじったことが消えることはない。

 恨みは残る。


「到底受け入れられるものではないな」

 ありえないと首を振った。


「糧食なくして戦争はできませんわよ?」

「まったくもってその通り。だが、断る!」

「後悔しますよ」

 捨て台詞を残して、女商人は立ち上がった。


 ずいぶんと物わかりのいい態度に見えるが、違う。

 いずれ、糧食欲しさに縋りついてくると見越しているのだ。


「わたくし、当面は近くに居ります。気が変わりましたら、使いの者を寄こしてくださればいつでも対応いたしますわ」

「無駄になりますから、早めにお帰りになることをお勧めしますよ」

 さっさと帰れ、と冷淡に答えるカロスターク。

 意を受けたセザールが、すかさず歩み寄って送り出しにいく。

 雰囲気的に『連行』しているように見えるのは気のせいではないだろう。



「で、食料はどうするの?」

 戻ってきたセザールが、開口一番聞いてきた。

 二時間ほど前にも聞かれたことだ。


「それは——」

 カロスタークは自分の考えを語り始めた。




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