第4話 道があると知れば、誰もが道を歩く ①
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「茶髪の商人だったりはしないよね?」
思わず言葉遣いが丁寧になりそうになりながら、カロスタークは問い返した。
「黒髪で、女です」
「別口か」
いや、わからないか?
後ろで繋がっている可能性は否定できない。
カロスタークを揺さぶろうとの策でないとは言い切れなかった。
「とりあえず、会ってみよう。連れて来てくれ」
相手から情報を得られるかもしれない。
会わないという選択肢はなかった。
こちらの情報を取られないよう、気を付けなければならない。
◇
女の商人はそれから一時間待たずに現れた。
馬車を曳いてきた馬から蒸気が立ち上っている。
かなり急がせられたようだ。
女商人は妙齢だった。
まだ若いが、才気溢れるという言葉を体現したような雰囲気を持っている。
同様に、野心も持っていそうだとはカロスタークの感想だ。
露出度の高い服をまとい、男の情欲を刺激するような香水をつけている。
知らないで見たら、『夜の蝶』か『娼婦』だと思ったかもしれない。
「食料が足りないとのお話を聞きつけまして、駆け付けてまいりました」
挨拶もそこそこに、そう切り出してきた。
馬の様子からして『駆けつけてきた』は事実だろう。
「小麦をお売りいただけると?」
茶髪の商人再び、そんな話だろうか?
中身が同じでも接客担当が変われば売れたりするものだ。
それを狙っての時間差攻撃を、カロスタークは疑っている。
「いえ。残念ながら小麦の買い付けは無理でした。かわりに、イモや他の穀物を買い付けております」
「ほう——」
小さく頷いてカロスタークは考え込んだ。
同じ穴の狢かと思っていたのだが、仲間ではないらしいと当たりを付けたのだ。
二人の商人がグルだったなら、扱う商品は小麦で変わらない。
数万に及ぶ軍隊に供出するための食糧を種類豊富に買い占めるなんてことは、帝国がバックにいてもそうそう容易くできるものではないからだ。
だとすれば、考えられることは一つ。
茶髪の商人が帝国に直接雇われた工作員で、女商人は何らかの方法でそれを知って便乗——抜け駆け——をしようとしている。
急いで駆け付けたのは、茶髪の商人との取引が成立してしまったら自分の品物を売りつけられないからだ。
そういうことなら、多少割高であるにしても彼女からならば物資を買えるかもしれない。
売りつけに来ているのだから、結局売らないということにはならないだろう。
「条件次第では、小麦でなくても買いますよ。売値はいかほどを想定しておられるのかな?」
茶髪の商人は相場の五倍だったが?
「値段は・・・そうですね。相場の二割増しといったところでしょうか」
「二割、戦場へ運ぶとなると妥当なところでしょうか」
ふむふむと頷きながら、カロスタークは警戒した。
この状況下であることを考えれば、『安すぎる』。
例えば、カロスタークがこの女商人の立場ならば五割は上乗せする。
あるいは、政治的な———。
なるほど。
カロスタークは自分に頷いた。
それが狙いかと思い当たったのだ。
「予想外の好条件ですが・・・それだけではないのでしょう?」
「ふふふ。さすがですわね。ええ、それだけではありませんの」
穏やかに笑うその中で、目がギラリと光った。
「カロスターク様が傘下に置いておられるすべての地域で、商取引を独占させていただきたいのです」
「・・・全て?」
『傘下』と言っている。レッドルア伯爵領だけでなく、モンモラシー男爵領とミヌミエーラ男爵領、さらには各地にある宿場までが範囲になりえるということ。
かなりの広範囲を商圏にしようとしていることになる。
そして、それは——。




