第3話 麦を植える前には土を耕すもの ③
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ヘラヘラとした笑みを隠しもせず、茶髪の商人はカロスタークを見ていた。
焦って縋りついてくるのを待っているのだ。
そして、頭を下げさせたとしても結果は変わらず。
何かしらの理由を——理由にもならない理由を——付けて売り渋るのだと思われた。
「ああ、そうだ」
なにか、いいことを思い付いたって顔で笑みを深くする商人。
なにを言い出す気だ?
カロスタークは無言で続きを促した。
警戒心はない。
どうせ無理筋の要求に違いないからだ。
あるのは興味のみである。
「私もいい年だ。嫁でも紹介していただけるなら、考えなくもないですよ?」
下卑た視線が、セザールに向けられている。
「ッ!」
セザールが射殺せそうな目で睨みつけた。
当然だろう。
カロスタークにしても、嫌悪感しかない。
正妻扱いはできないが、セザールは正式な側室だ。
それを寄こせという。
明らかに女性をモノ扱いしている。
常識的にも倫理的にも許されないことだ。
「言いたいことは、それだけか?」
もとより予定されていた、決裂という結論へ至る。
「それだけです」
クスクス笑いながら首肯された。
向こうにとっても予想通りの展開ということ。
やはり、売る気などないのだ。
小麦を梃子にして、カロスタークに揺さぶりをかける。
それだけが目的なのだろう。
あとは挑発と侮蔑。
伯爵を手玉に取って弄ぶのは、きっと彼にとって楽しいことなのだ。
「出て行くがいい」
虫を避けるように、カロスタークは手を振った。
「今すぐ出て行き、二度と顔を見せるな。レッドルア伯爵家の領内に立ち入るようなことがあれば、身の安全は保障できない」
「モンモラシー男爵領もです。王国北西部では二度と商売ができないと思いなさい!」
セザールも冷たく言い放っている。
「残念ですな。貴族令嬢の味を堪能できるかと思ったのですが。それに・・・王国は終わりかもしれませんな。食料がなくては戦いにもなりますまいに」
言い捨てて、茶髪の商人は幕舎を出て行った。
「・・・これ、よかったの?」
血の気が失せ顔を青褪めたさせたセザールが、小さな声で問うて来た。
商人の最期のセリフで頭が冷えたようだ。
補給路を断たれた軍隊ほど悲惨なものはない。
それは、古今東西いろいろな戦史で語られていることだ。
「良いも悪いもないよ」
どう転んでも、あの商人が小麦を売ってくれる可能性は0。
交渉の余地もなく、それは決まっている。
「ヘタに可能性を追いかければ、彼の言葉に右往左往させられてかえって事態を悪化させる。きっぱりと切って棄てるのが賢明だ。というか、兵の目が無かったら、ここで暗殺したかったくらいだよ」
取引に来た姿は兵たちも見ている。
これを殺してしまっては、今後の外交や取引に深刻な影を残す。
実行はできない。
できないが、人知れず消す方法があったら間違いなく殺しているところだ。
「でも、だったら食料はどうするの?」
「それは——」
腹案を語ろうとしたカロスタークだが、それは延期せざるを得なかった。
セザール騎士団きっての斥候である女が、駆け込んできたのだ。
「商人が会いたいと言ってきている」と。




