第2話 麦を植える前には土を耕すもの ②
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そして、現在。
王国内では。
「まいったね」
あはは、とカロスタークは乾いた笑い声をあげていた。
ミーランが一族の中でも腕利きを選りすぐって駆けつけてきている。
『さぁ、ここから反撃だ!』と、勢いをつけたいところなりだが・・・
「食糧がないと来たか」
やれやれとカロスタークが頭を振る。
そう。補給が途絶えたのである。
当てにしていたルート上から、小麦などの主食がことごとく消えていた。
この時期なら、在庫が結構な量あるはずで運搬に気を付けさえすれば問題ないはずだ。
なのに、ない。
誰かが買い占めたらしい。
「『誰か』、じゃないけどな」
苦々しい思いが立ち上がった。
買った相手はわかっている。
いや。
たった今、分かったところだ。
商人が売り込みに来たと報告が上がったのである。
周辺警戒をしていた斥候に接触があったらしい。
曰く、「小麦をお買い上げいただけませんか?」と。
わざわざ、この戦場にだ。
違和感しかない。
「買い占めがあったことに気が付いた直後に売りに来るとは。ずいぶんと親切なことだ」
わかりやすいという意味で。
買い占めを行った当人でなければ、こんなタイミングで売りになんて来るはずがない。
そもそも、売りに来られるはずがない。
「その商人を連れて来てくれ。いったいどれだけ値を吊り上げてくるか見てやろう」
もっとも、売るつもりなどない可能性もある。
カロスターク陣営がどれだけ焦っているかの確認をしたいだけとも考えられるのだ。
買い占めを行った商人は、当然に帝国側の工作員となっているのだろうから。
◇
セザール騎士団の団員に連れられてきたのは、茶髪の中年男だった。
これと言って印象に残らない、凡庸な男だ。
野営の幕舎内で接見する。
「このようなところにまで営業に来るとは、見上げた商魂ですね」
挨拶もそこそこに、カロスタークは踏み込んだ。
戦場の只中、商売相手はカロスタークしかいない現状。
通常の商売に来るにしては、リスクが高すぎる。
『裏がありますよね?』。
そう指摘している。
「少々買い求めすぎましてね。正規のルートだけでは捌ききれないのです。どうか、お助けいただきたい」
茶髪の商人は頭を下げた。
ただし、口許には歪んだ笑みが張り付いている。
己の勝ちを疑っていない者の笑みだ。
「豪気なことですな。それほど大量に買った目的は何なのでしょう?」
意図的に買い占めたんですよね?
遠回しにではあるが、核心部分を突っついた。
「つい調子に乗って買いつけ過ぎたのですよ。我ながら情けない」
意図して買い占めたのではなく、調子に乗ってやり過ぎただけなのですよ。
あからさまな誤魔化しだ。
見え透いているが、追及するだけの確証はなにもない。
「そうですか。それなら、きっとお安く売っていただけるのでしょうね?」
大量に買ってしまい、売り捌くことができないので戦場にまで営業に来た。
一連の会話で、そう主張したはずだ。
なら、抱えた在庫を売り払うためには相場より安くなる。
安くならなければならない。
「できればそうしたいところなのですがね」
そう言って茶髪の商人が出して見せた取引金額は、相場の五倍だった。
「吹っ掛けてくれますね?」
売る気ないだろ?
カロスタークが冷たい言葉を吐いた。
予想はしていたが、やはりまともに商売をする気なんてないのだ。
「高いと思われるのは心外ですな」
「実際高いでしょう?」
「穀物庫からの距離を考えていただきたい。ここまで運ぶのに、どれほどの輸送コストがかかるかを。運送を請け負う者への危険手当も弾まないとなりませんしね。なにしろ、ここは戦場だ」
「でしたら、運送はこちらで行います。麦だけの値段をおっしゃってください」
運送費用を上乗せしている。
危険手当も計上すると五倍になるのだ。
そう主張するのなら、運搬をこちらでやればいい。
相場での取引が可能になるはずだ。
「残念ながら、それは出来かねます」
「なぜ?」
「古い付き合いのある運送業者がありましてね。私が取り扱う品物の運送は、その業者に頼むと決まっているのですよ」
「へぇー、そうですか」
カロスタークの言葉が平坦になった。
いわゆる棒読みだ。
確かに、異業種同士で連携をとる場合はある。
持ちつ持たれつでやっている商売仲間がいるというのはおかしくない。
だけど、客の要望をそれだけを理由に突っぱねるなんてありえない。
やはり。
売る気はないのだと理解する。




