第1話 麦を植える前には土を耕すもの ①
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とある夜。
帝国の一角でのこと。
兵を未だ動かしていなかった、ある日のことである。
二人の人物が差し向かいで座っていた。
「意外にいけるな」
のんびりとした様子で、酒精を含んだ息を吐き出し豪奢な金髪男が感想を述べた。
傾けているグラスでは、血のように赤い液体——ワイン——が揺れている。
「だが、わたしはやはり麦の香りのするやつを煽るほうがいい。酒を飲んでいるという気持ちにさせてくれるからな」
「左様でございますか」
赤みの強い茶髪男が、曖昧な口調で応じた。
金髪のほうが年若く、茶髪は中年である。
しかし、身分という点では金髪が上で茶髪は下だ。
返答には気を遣わねばならなかった。
なにより、麦酒がワインより好きだなどと言うありもしないことを聞かされては慎重にならざるを得ない。
何かしら、言外のことを伝えられているに違いないのだから。
一体、何を言おうとしているのか?
思考力をフル稼働して謎解きをしなくてはならない。
「お前は、王国出身だったな。取引もするのだったか?」
「伝手がございますので、取引はございます」
「麦を買ってまいれ」
「麦をでございますか?」
麦酒が好みというのは麦を買ってこいとの暗喩だった?
なぜ、そんな遠回しに?
麦が欲しいのなら、そういえばいいだけだ。
謎かけなどと言うまどろっこしい表現をする意味が解らない。
「ありったけな」
「ありったけ・・・ッ?!」
ようやく意味するところを知り、茶髪は青褪めた。
帝国内での動きについての情報は得ている。
この時期に、『王国内』で麦を『ありったけ』買うことの意味。
茶髪は父祖の地を待ち受けるだろう未来を慮った。
決して、明るくはないだろうと。




