第10話 毒と薬は別物に見えて、本質は同種たらん ⑦
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「どれどれ」
なにを書いて寄こしたのやらと、興味と不安で書面に目を落とした。
一瞬で青筋が浮いた。
『全脈、ミザーリ先生へ』
それを言うなら『前略』だ!
手紙の書き方も教えたはずだが、本当に『はず』でしかなかったようだ。いや、これもわたし自身の不徳によるものか。
先刻、翼人族の娘に言われた言葉が甦った。
弟子は悪くない。
弟子に身に付く教育をしてやれない教師に、教師たる能力が不足しているだけだ。
弟子の不甲斐なさを怒るのは筋違い、自身の能力が低いことを嘆くべきなのである。
気を取り直して、続きに目を走らせた。
『俺は今、『亜人の町』にいる。なんと、領主から料理長にしてもらったんだぜ?! 騎士団の連中にメシを食わせる仕事だ』
自信満々で自慢する内容が綴られている。
どうやら、傭兵がかっこよく見えるお年頃ではなくなったようだ。
「料理人か、いい仕事だよ」
自慢して大丈夫だ。
『ところがよ。領主からはもう一つ仕事を頼まれた。特別なメニューを作る仕事だ。食い物で体の不調を直すんだ。先生が言っていた利殖動転ってやつだな』
「『医食同源』じゃ。バカめ」
『てなわけで、先生のことも雇いたいって言ってもらったんだ。先生に助けてほしいってさ』
翼人族の不調を緩和する食事。
それが喫緊の問題であるらしい。
それだけでは、雲をつかむ話だが、手紙には特別なメニューに必要な要素も書かれていた。
これなら、考えることはできる。
ミザーリの頭の中ではすぐさま、いくつかのレシピが作られている。
個人差もあるだろうし、実際に食べてもらわないと確実なことは言えない。だが、悪化を防ぎ小康状態にする程度には役立つだろうと思う。
やれるはずだ。
懐から黒炭を出して、手紙の端にさらさらとメモを書き付けた。
思い付きを報せてやろう。手紙
の内容からして、早い方がいいに違いない。
もしかしたら、このメモで充分だと言われて雇うのをやめられてしまうかもしれないが、それならそれでいいと思う。
相手がその程度の相手であれば、こっちから願い下げた。
『だけじゃねぇ! いま、この領地はいろいろと大変らしくてな。深刻な人手不足だってんで、人手を募集してる。遊んでる若ぇのがいるなら、雇ってもらえるぜ?』
ミザーリは思わず周囲に目を向けた。
いい若者が働き口もなく、自分の周りに屯している。
好んでのことではない。
彼ら自身に働く意志はある。
ただ、働かせてくれる人も場所もないだけだ。
なので彼らはときおり森に狩りに出かけ、獣を捕らえては肉や皮を売って小銭を稼ぐ生活を送っている。
ミザーリとしても、これはなんとかしたいと考えていた。
なんとかする方法を、見つけることができずにはいたが。
『いい返事を期待してる。不逞なる弟子ライアンより』
手紙は、そう締めくくられていた。
文面は酷いものだ。教えたことの半分もできてはいない。
でも。心は感じられた。
端々から、こちらを気遣う気持ちが滲んでいる。
頭の出来はともかく、真っ直ぐで純粋な可愛い弟子からの手紙だった。
「やれやれだね」
頭を振って立ち上がる。
自分が情けなかった。
かつての弟子に救われようとしている。
まだ相手の顔もわからないし、どんな仕事をさせられるかもわからない。
だが、機会を失うことはできない。
行ってみるだけでも、見分を広げられるはずだ。
ここに残り続けるよりはずっといい。
ライアンからの手紙は、停滞に沈んでいた者たちに動く機会を与える点だけとっても、意義のあるものだという気がした。
「先生?」
弟子の一人が寄り添うようにして、声をかけてきた。
「わたしは『亜人の町』に行く。荷物をまとめな。この村は引き払うよ」
「わ、わかりました!」
慌てたように仲間のところに走っていく。
「それが答え?」
ふわっと浮いて、女の翼人族が聞いてきた。
聞こえたようだ。
「ああ、一両日中に着く。世話になると伝えておくれ」
手紙を返してやりながら答えた。
この娘は、自分が手紙の端にメモを書き込んでいるのも見ていたに違いない。
事実、翼人族の娘は受け取った手紙をちゃんと布でくるんだ。
持ち帰るという意味が分かっている。
「一両日だね。わかったよ。気を付けてくるんだよ」
言葉尻に気遣いを見せて女の翼人族が去っていくのを見送り、ミザーリもまた歩き出した。
このところ、煩わしげな視線を向けて来るようになってきていた村人たちに、別れを告げるために。




