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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【ミーラン】編~レッドルア家発展の礎~

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第9話 毒と薬は別物に見えて、本質は同種たらん ⑥

1/5

 


 その日、世界から忘れ去られたような村に、三匹の悪魔——天使?——が降り立った。


「な、な、な、」

 たまたま村の広場にいた若者が、腰を抜かして座り込んだ。


「あれ? 蛇足族いなくない?」

 周囲をぐるりと見回して、腕組みをした女の翼人族が呟いた。

 彼女の左右後方には、屈強そうな男の翼人族が仁王立ちしていて、威圧感がハンパない。


「だ、だ、蛇足族? それなら、あっちだ!」

 腰を抜かした若者が必死になって、指を振った。

 震えまくっていて「あっち」がどこかよくわからないが、方角と蛇足族がいることはわかったから充分だった。


 バサッ、黒い翼を羽ばたいて飛び上がる。

 騒ぎを聞きつけたのだろう、向かう先に蛇足族が集まり始めていた。


 その後ろにまん丸なテントがいくつも並んでいる。

 これが蛇足族たちの住居であるらしい。

 手間が省けたと女の翼人族が頬を緩めた。


「ここにミザーリって蛇足族の女がいるって聞いた。どの人?」

 集まった蛇足族を見下ろして問いを投げた。


「な!」

「先生に翼人族ごときがなに用だ!?」

 蛇足族たちが色めき立つ。

 ミザーリというのは彼らにとって、先生と呼ぶほどの相手であるらしい。


「手紙を届けに来てあげたんだよ」

 指先で挟んだ封筒を振って見せる。


「手紙だと?!」

「ふざけるな!」

「先生が翼人族ごときの手紙など読むものか!」

 次々に打ち上がる罵声に、女の翼人族は面倒くさそうな顔になった。


「ミーラン様、ここは我々が黙らせましょうか?」

 二人の護衛が全身に力を入れて進言する。

 一瞬、ミーランが考える素振りを見せた。

 だが、その必要はなかった。


「まちな」

 蛇足族の作る壁の向こうから、しゃがれた声が待ったをかけたのだ。


「下がっていてください」

「危険です!」

 一人の蛇足族が押しとどめようとする仲間たちの間を、毅然とした態度で歩み出てくる。


「黙りな。わたしを名指しでやってきたんだ。仮にもわたしの客だよ。危険かどうかは自分で判断する」

 自分よりでかい蛇足族たちを下がらせて、ミザーリはミーランと相対した。


「うちの若い者が失礼したね」

「下の者を躾るのは、上に立つ者の責任。その人たちが悪いんじゃない。あなたの教育がなってないだけ」

 ミーランがフルフルと首を振る。


「クク」

 お前が悪いと言われたミザーリが、目を細めて短く笑った。


「違いないね。耳に痛いよ」

 小さく、何度も頷く。


「で? 手紙だったかい?」

「そうだよ。返事が欲しいって言われてるから、読み終えたら呼んで」

「ああ、わかったよ」

 封筒を受け取ってミザーリは、適当な椅子に腰を掛けた。

 上着から眼鏡を取り出し、読み始める。


「ライアン? ああ、あのハナタレか」

 送り主の名を確認して呟いた。

 最後に会ったのは四年前だったか。

 他の若者たちと一緒に傭兵になるなどと、バカなことを言うので叱ったことを思い出す。蛇足族といえば傭兵、戦闘民族。そんな人間たちの決め付けになぜ乗っかってしまうのか。寂しくもあり、哀しくもあったものだ。



読了・評価。ありがとうございます。


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