第8話 毒と薬は別物に見えて、本質は同種たらん ⑤
4/4
店主に連れて行かれたのは奥の個室だった。
個室と言っても、四人掛けのテーブルが詰め込まれているだけ。
かなり狭い。
テーブルを囲んでいるのが男ばかりなので、なおのこと狭く感じる。
ミーランが、もういいやって帰ってくれて助かった。
『蛇足族』が苦手らしい。
鳥と蛇だからかな。
「さて、おすすめはなんだ?」
席に着くやいなやカロスタークが聞いた。
「は? おすすめ?」
「ここで働いていたんだから、なにがうまいか知っているだろ?」
「あ、ああ。そういうことか」
ようやく、おすすめの意味ができたらしく、蛇足族の目が宙を見上げた。
「羊肉の香草焼きだな。仕入れ先がいいんだと思う。うめぇぜ」
「そうか。じゃ、それを頼むとしよう」
カロスタークの言葉を受けて、護衛が注文を伝えに出て行った。
「カロスターク・カロ・レッドルア男爵だ。君は?」
「蛇足族の元傭兵、ライアンだ」
「ライアンか、よろしくな」
お互いに名乗り合い親睦を深めようという場面だが、残念ながら琢真もライアンもこれについてはドライだった。
すぐに仕事の打ち合わせが始まった。
「君の仕事は第一に、私直属のセザール騎士団団員たちの食事を作ることだ」
「おお。当然だな。一度に百人分作ったこともある。任せてくれや」
「第二に、特殊なメニューの開発を頼みたい」
カロスタークは『翼人族』の問題について説明した。
体調改善メニューの開発が急務なのだと。
「ふーん。塩に鉄分ね」
ライアンはアゴの下をさすりながら、考え込んだ。
「普通に考えて、そこはレバーだろうな。羊のレバーなら、安く手に入るぜ」
「レバーか」
鉄分摂取の食材と言えばレバーだから驚きはない。
いや、驚きはある。
サラリと答えが返ってきたってことは、学院以外でも食材の栄養素の概念が存在するということだ。
でも・・・。
「安い? なぜ?」
この辺りではレバーを食べる習慣がないのだろうか?
「肉の重要のほうが高いのさ」
食いに来る客が肉を八食べるとすると、レバーは一か二。
だが、体の小さい羊は肉を八とした場合、レバーは三か四の割合でとれる。
結果、レバーは供給過多となっていて、常にダブついているのだという。
「肉だけとってレバーは残しておくなんて、できっこねぇからな」
そりゃそうだ。
レバーの需要がなくても、肉の需要があれば羊は殺される。
殺したからには解体しないわけにいかない。
余るとわかっていてもだ。
「だけどなぁ」
困ったように、ライアンが指先で頬を掻いた。
「なにか問題でもあるのか?」
「問題っつうか、そういうことなら俺よりも適任がいるんだ。俺の師匠みたいな人なんだけどさ。そっちに頼んだほうがいいんじゃねぇかな?」
うん。やっぱり悪いヤツじゃない。
少なくとも、自分の利益を守るために隠し事をするような姑息さとは無縁な男だ。
「それなら、その人は管理栄養士として傭うさ。その人がレシピを考えて、君が作る。頭脳労働者と体力バカの関係だな」
「ぶはっ! ソイツはいいや! ヒキャキャキャ!」
膝を叩いて爆笑された。
「その人って、住んでいる所は遠いのか?」
「いや。同じ領内だし、遠いってほどじゃねーよ」
「そうか、ならあとで手紙を書いてくれ。届けさせる」
「おう! わかったぜ」
ニカッと笑うライアン。
この蛇足族を気に入り始めていることに、カロスタークは気が付いていた。
すごく話しやすい。
きっといい関係を構築できる。
「おまちどおさまです」
護衛に付き添われて店主が料理を運んできた。
毒を盛られることを警戒して、ずっと見張っていたらしい。
二度と外食はすまい。
青筋立てている店主の顔から全力で視線を逸らして、カロスタークは心に誓うのだった。
読了・評価。ありがとうございます。




