第7話 毒と薬は別物に見えて、本質は同種たらん ④
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「どこか、安くてボリュームのある店を紹介してくれないか」
町の案内にと付けられた獣人に頼んだ。
わかりやすい太い尻尾を持つ、キツネ獣人の——男性だ。
飯屋でメニューを見れば、その街で手に入る食材のラインナップと相場がわかる。
なにがあるか見てみたい。
「そうですねー、それならば・・・」
案内されたのは、どんな町にもありそうな大衆食堂だった。
石の床に粗末な木のテーブルと椅子を並べたような店だ。
その店内に足を踏み入れて、カロスタークは思わず硬直した。
ヘビがいたのだ。
人間の上半身があるヘビである。
あー、いや。違う。
ヘビの下半身を持つ亜人だ。
『蛇足族』である。
身長は二メートル近く、鱗はツヤのない赤銅色。
顔は人間の物でありながらも黄色い爬虫類の目が、なかなかの迫力を生み出している。
「貴様!」
「何者?!」
護衛のセザール騎士団員が、剣を抜いて前に出る。
いや、そんな慌てなくていいと思うよ?
白い前掛けをして、テーブルを拭いている刺客なんているわけない。
「バカ野郎! 店には出るなと言っているだろうが!」
緊迫した場面に似つかわしくない、中年男性が走り出てきた。
「でもよ。厨房は暇だし、店の掃除ぐらい手伝うぜ」
「よけいなことはするな! お客様が驚くじゃねぇか!」
中年男性が店の主のようだ。
察するに、このヘビを雇っているものの厨房から出ないように言いつけていた、そんなところだろう。
『亜人の町』だけに店主も獣人なのだが、『蛇足族』は亜人の中でもかなりの際物に分類されている。
迫害や差別とまではいかないが、距離を置かれる存在ではあるようだ。
「申し訳ない。働かせてほしいっていうんで、置いてやってる奴なんですが、自分が『蛇足族』だってことを気にかけねぇんですよ」
「でもよ」
「でもじゃねぇ! 店の評判にかかわることだ」
店主が怒鳴っている間にも、やってきた客が『蛇足族』に気付いて踵を返していく。
客商売に『蛇足族』は不向きのようだ。
「やっぱ、ダメだ。雇うわけにはいかねぇ。出て行きな」
「そ、そりゃ困る。家で食い盛りのガキが待ってんだぜ」
「知るか! 蛇足族らしく傭兵でもやれ!」
「それはダメだ。ガキがいるんだぜ。戦場には立てねーよ。料理で生活していきてぇんだ」
焦った『蛇足族』が店主に縋り付いている。
だが、店主が翻意する様子はない。
「クソ!」
前掛けを乱暴に外して、蛇足族が出て行こうとしている。
「料理は得意なのか?」
その背中にカロスタークは声をかけた。
「あ? ああ。俺がメシ当番のときは、仲間が喜んでくれてたぐらいにはな」
出て行こうとしていた蛇足族が、律儀にも立ち止まって答えてくれる。
うん。悪いヤツじゃない。
「私が雇い入れよう」
騎士団にも料理番が必要なはずだ。
平和な定食屋とまではいかないが、後方支援員としてなら働いてくれるだろう。
「あんた、誰だよ」
睨まれてしまった。
見た目がただのガキに、雇うとか言われたんだ。
当然か。
「無礼な!」
「この方は、レッドルア男爵。近くこの町の領主となられる方だぞ」
護衛が気色ばんで迫るが、蛇足族はどこ吹く風だ。
性格がのんびり屋なのではなく、余裕がある。
人間の護衛が二人程度では、恐れるに足りずってことなのだ。
「領主? このチビが?」
「チビは余計だな」
確かに、ここにいる者たちの中では一番背が低いけど。
「あと、気が早い」
まだ状況説明も終わっていないのだ。
予想はできるが確定ではない。
「でも、貴族なのは事実だ。君を騎士団の料理長として雇おう」
「本気か?」
半信半疑。そんな様子で問いかけてくる。
「うちの騎士団が現在、破滅的に人材不足であることに感謝してくれ」
はっきりと頷いてやった。
領地が増える目算はあるのに団員の拡充は進んでいないのだ。
「騎士団か・・・戦いはしねぇけどいいのかよ?」
「後方支援のとこまで敵に攻め込まれるようじゃ話にならんよ。そん時は一目散に逃げていい」
料理番は後方支援要員。
非戦闘職と決まっている。
「助かるぜ」
ニカッ! と笑う。
爬虫類の目で笑われると怖いんだが、そのうち慣れるだろう。
「よし。話も決まったことだし、メシだ。店主、奥なり個室なりに案内してくれ」
蛇足族が目立っては困るらしいからな。
「あ、ああ。なら、こっちだ」
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