第5話 毒と薬は別物に見えて、本質は同種たらん ②
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「やっと来た」
町を一度出て、セザール騎士団の野営地へと向かう。
設営されたテントの中へ入ると、疲れた感じの声が上がった。
簡易の執務机、その手前に向かい合わせで折り畳み椅子が置いてある。
その一つに、セザールが座っていた。
疲れているのか目の下に隈を作り、髪があちこち跳ねている。
ちょっぴり荒んだ目になってもいた。
「えーっと、お待たせしちゃったのかな?」
頬を掻き掻きカロスタークが言ってみる。
「あ・の・ねー」
凄く低い声で、一音一音区切るように打ち出される言葉。
かなり怒り心頭だと思われた。
「気づいたらいなくなってるし、いろいろやることがあって探しには行けないし。、気が気じゃなかったのよ!」
「おお」
それは確かに帰りを待ちわびもするか、とカロスタークは納得の声を上げた。
「『亜人の町』をもっとよく知りたかったんだ」
その判断は絶対に間違っていないと思う。
今後のことを考えれば大事なことのはずだ。
「それは、わかるけど・・・」
理屈は理解できるが感情が収まらないっていうたぐいのことなのだろう。
「しかも、何か面倒ごとに首突っ込んだって、さっき聞いたわ。何とかなりそうなの?」
心配そうに聞いてくる。
その目が、恐々とミーランに向けられた。
実は、なにをするか見ていたいと言って付いてきているのだ。
エルフの長はさすがについてきていないけど。
「具体的な症状を教えてもらえたからね」
聞いた内容を、カロスタークは話して聞かせていった。
眩暈から始まり、筋肉の痛み、意識障害といった話だ。
横でミーランが、熱心に聞き耳を立てている。
「か、かなり重度っていうか大変じゃない。そんなの何とかなるの?」
セザールは、さらに不安そうな顔になった。
「まず考えたのは、塩分濃度の高い水場から真水の水場になったことの是非」
普通に考えれば体調がよくなりこそすれ、悪くなるはずがない。
なのに、結果として元気がなくなっている。
「考えて、答えはすぐに出た。『翼人族』には塩分濃度の濃い水場が、塩分か必要だったのではないかってね」
「そんなことある?」
「おおありだよ。『翼人族』は空を飛ぶ。そこから推測すると、人間一人分の重さを自身の翼で支えて飛ぶんだから、とてつもなくエネルギーを消費するはずだ。カロリーと言い換えてもいい。そうすると血流の量と速さがかなり大事になる。塩が不足して血の浸透率が下がることが、致命的なまでに影響する可能性があるわけだ」
ナトリウムの不足で血流が弱まる。
栄養素の大部分は血によって運ばれるのだから、血流の弱まりは即座に体全体へ問題を生じさせる。
学院で習った栄養学の基本理念である。
「そう考えて症状を見直すと、君も覚えがあるはずのものがいくつかある」
「え?」
「めまい、立ち眩み、疲れやすい、動悸、息切れ・・・これらをもたらす病気っていうか状態の代表格は?」
「・・・貧血?」
少しだけ考えて、セザールが答えた。
カロスタークが大きく頷いてみせる。
「血の中の鉄分が不足した時の症状だよね。『翼人族』が他の生物から血を吸う必要性って、空を飛ぶ力を手に入れたことで燃費が悪くなった体への栄養補給のためだと思うんだ。その一番が塩分、続いて鉄分だと仮定してみる。そうすると、他の症状もビタミンB1が不足したときに起きる脚気、ビタミンCの不足による壊血病なんじゃないかと推察できる」
特に壊血病なんて、合併症に鉄欠乏症とかが含まれるから、もうこれが答えとすら言えるとカロスタークは考えたのだ。
「だとすれば、食事療法で改善できる」
元気にはなるはずだ。
「そんなにうまくいくかしら?」
カロスタークは自信を持っているのだが、セザールは不安を拭えていないようだ。
結果が出るまでは楽観できないのも事実だし、しかたない。
それでも、方向性は見いだせている。
「さて、なにからはじめようかな」
箱を積んだだけの椅子に座り、カロスタークはやるべきことに考えをはせた。
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