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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【ミーラン】編~レッドルア家発展の礎~

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第4話 毒と薬は別物に見えて、本質は同種たらん ①

4/5

 


 『ミーラン』は哀しげに俯いてしまっている。

 根深いものがあるのかもしれない。


「言ってみなよ。口に出して言うだけならタダだぞ。悪いことにもならない」

 務めて明るく発言を促すカロスターク。

 それでも、沈黙はしばし続き・・・。


「仲間が病気。元気ない」

 ポツリと呟きが落ちた。


「病気かぁ」

 それはちょっと、とカロスタークは顔を曇らせた。


 カロスタークは貴族であり領主、そして商人。

 医者ではない。


「人間のせいだ! 人間が水場を奪ったから!」

「水場か。今の住処には水場がないのか?」

 そういう話なら、領地持ちの貴族にもできることがあるかもしれない。


「水場はある」

「あるのか、なら——」

「でも違う! 前の水場と違う!」

 両腕と翼をバタバタさせて、力説された。

 なにかが違うらしい。


「いまの水場の方がよい水場なのだがな」

 横で聞いていたエルフの長が、そんなことを言い出した。


「と言うと?」

 前は何が悪かったと言うのだ?

 今の方がいいはずだと言うからには、エルフから見ると前の水場に問題があったということだ。


「『翼人族』たちの元の住処は南方の海岸線でな。水場となっていたのは汽水域だったのだ」

「海水が混ざっていたと?」

 汽水域とは、淡水と海水が混じり合う場所を指す。

 一般的には川が海に流れ込む河口付近や、湾などで見られるものだ。


「そういうことじゃ。薄くはなっていただろうが塩水に近い水。体に良いはずがあるまいて」

「確かに」

 カロスタークも同意した。


 医者でなくとも、常日頃から塩水を飲むことが健康にいいはずがないことはわかる。

 だけど・・・?


「真水の水場がある今の住処に来てから、病気の仲間が増えたんだね?」

「そうだよ!」

「そうか・・・」

 カロスタークは考え込んだ。


 ただ単に、環境の変化によるストレスとも思えるが・・・。

 ミーランを見る。

 身長と同じくらいの大きな翼が目を引いた。

 可能性、あるのではないか?


「ちなみに、仲間の病気ってどんな 症状は?」

「症状? えーっと。まずは大量の汗。すごくたくさん汗が出てた。何もしてなくても。だからかな? 皮膚がカサカサになって、眩暈もおきるみたい。そして最悪なのが筋肉のけいれんだね。いてもたってもおれぬほどの激痛だって言ってる」

 仲間の様子を思い出しながら、苦い口調で『ミーラン』が丁寧に教えてくれた。


「ミーラン」

 最後まで聞いたところで、カロスタークは居住まいを正して口調も改めた。


「ん?」

 雰囲気の変わったカロスタークに、ミーランが怪訝な顔になる。


「ん?」

 雰囲気の変わったカロスタークに、ミーランが怪訝な顔になる。

 けれどその目は、どこか期待を含んでいた。


「少し時間をくれないか? 翼人族を元気にする。そんな手立てを講じる猶予が欲しい」


「そんなことができるものかっ!」

 エルフの長がすかさず怒声を張り上げた。


 けれど、ミーランはその声に反応せず、じっとカロスタークを見つめていた。


「できる、そう思っている顔だね。わたしの話を聞いたうえでってことは、根拠のある話なんだよね?」


「もちろんだ」

 自信をもってカロスタークは答えた。


 その瞬間、ミーランの胸の奥で、何かが小さく跳ねた。


『翼人族』は伝統的に女性のほうが発言力が強い。

 ミーランの周りでは、こんな自信を見せる男が今までいなかった。

 彼女がカロスタークを特別視し始めるには、十分なきっかけだった。


「わかった。でも、そんなには待てないかも」


 そう言いながら、ミーランはそっと視線を逸らした。

 けれどその頬は、ほんのりと赤く染まっていた。



読了・評価。ありがとうございます。


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