第3話 レッドルア家発展の礎 ③
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「なんだコイツは!」
とりあえず、長に手を貸してもらって立ち上がるカロスタークに、罵声が飛んだ。
コイツ、と指さされたのはもちろんカロスタークだ。
手は人間のものと同じで、人差し指が突きつけられる。
「カロスターク・カロ・レッドルア伯爵だ」
「名など知るか!」
どうでもいいと、腕が振られた。
併せて、翼も羽ばたいて風がすごい。
これはたぶん、いや、間違いなく威嚇されている。
「なぜ、人間がこの町にいるのかと聞いている!」
「人間がいてはいかんのか?」
「たりめぇだろ! ここは亜人の町だぞ!」
「その理屈だと、亜人が人間の町で迫害されるのは当然ってことになるね」
亜人の町に人間がいることを否定するのなら、人間の町で人間が亜人を否定するのもおかしなことではない。
「しかも、人間の町は確かに亜人に冷たいけど、出入りを禁止まではしていないよ? 亜人は人間よりも排他的ってことかな?」
そこにいるだけで罵声を浴びせたり、殴りかかったりはしない。
なのに、カロスタークはどうやら蹴り倒され、踏みつけられたらしいのだ。
どっちが狭量かってことになる。
「クッ!」
理解するだけの頭はあるようで、姉は言葉に詰まって顔を逸らした。
「だ、だが! この町は人間に襲撃されていたと聞いたぞ!」
「それを退けてくれたのが、このお方じゃ!」
亜人の町の長が吠えた。
エルフなのに、犬か狼の獣人並みの迫力だ。
「恩人に対して、何たる無礼か!」
「チッ。るっせぇな!」
姉が、カロスタークの足元に唾を吐いた。
「あっ、こら。待たぬか!」
翼をはばたかせて、姉がスルリと飛び上がる。
意図してのことだろうが、カロスタークの顔に土がかかった。
「あやつめ、逃げおった!」
憤慨するエルフの長。
「も、申し訳ありません!」
姉の代わりに頭を下げる妹。
姉は羽の色が鳶色だったが、妹は艶やかな黒羽を揺らしていた。
「で、でも。人間がこの町にいるのは、やはり違和感があるよ」
カロスタークを見つめながら、妹も拒否を示してきた。
その瞳は、まるで警戒心と…ほんの少しの興味が混ざっているようだった。
「この町を救った恩人なのだぞ!」
「そんなの知らないし、私には恩人じゃないし!」
唇を嘴のように尖らせて、妹が拗ねた。
けれどその頬は、ほんのりと赤みを帯びていた。
「なら、恩人なら問題ない? 仲良くなれる?」
暇だったせいだろうか?
カロスタークは、そんなことを言い出した。
けれどその声には、どこか期待がにじんでいた。
「んー?」
小鳥のように首を傾げる妹。
その仕草に、カロスタークの胸が一瞬だけ高鳴る。
「それなら、考えてあげなくもない」
「よし。で? なんか困ってることはある?」
勢い込んで問うカロスターク。
その目は、彼女の心の奥を知りたがっていた。
「……」
沈黙が返ってきた。
けれどそれは、言葉が見つからないからではない。
無垢な瞳が、カロスタークをとらえて離さない。
まるで、彼の中に何かを探しているかのように。
鼓動が、ひときわ強く鳴った。
それは、敵意でも警戒でもない。
もっと柔らかくて、あたたかい――
まだ名前のない感情だった。
恋とか愛とか呼ぶには打算的。
友情や信頼と呼ぶには、つやっぽすぎる。
ただ、彼女の瞳の奥に映る自分を、
もう少しだけ見ていたいと思った。
それだけで、胸の奥がざわめいた。
彼女もまた、何かを言いかけて、やめた。
黒羽がふわりと揺れて、風が二人の間をすり抜けていく。
その距離は、ほんの一歩。
けれど、踏み出すには勇気がいる一歩だった。
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