第13話 体と命、そして誇りと感情
3/4
偽りの町は燃え落ちた。
帝国軍の大部分を巻き込んで。
質の悪い肉が焼け焦げる匂いが周辺を押し包んでいる。
黒い炭と煤の下に、五万人分の肉があるのだ。
こんがりと焼けて。
「失敗したな。風向きを考えていなかった」
布で口と鼻を覆い、カロスタークが嗤う。
「そう思わないか?」
気軽な調子で声をかけた相手はマルガリータだ。
味方が町ごと燃えるのを目にして、茫然としているところを3万の軍勢で取り囲んだ。
町中の五万は火災先生にお任せできるので、全軍での歓迎である。
マルガリータ直属軍は三千余り。
およそ十倍の兵に取り囲まれては、成す術がなかった。
包囲されたとわかった時点で半数が戦意喪失。
残りの半数のうち更に半数が、自暴自棄の特攻を敢行して全滅。
それを見た多くの心も挫けた。
戦闘継続はもはや不可能となり、降伏することとなる。
「お前たちの勝ちだ。敗軍の将として、いかなる処遇も甘んじて受けよう。ただし、私の身においてのみの話だ。部下たちには寛大な処遇を求めたい」
降伏には、マルガリータ自身が使者に立った。
言葉通り、「敗軍の将」という立場に添うつもりであるらしい。
その後ろには、全裸の上に毛布を掛けられただけのシャリィアがいる。
『敗軍の将』から『救出された捕虜』にクラスチェンジをしたわけだ。
「残念ながら、この女以外に捕虜はいない。皆死んだのでな」
殺したとは言わない。
死んでもおかしくはない劣悪な環境に置いただけで、殺そうとしては殺していないからだ。
町への脅迫で使ったものも、悲鳴を上げさせるため痛めつけただけで殺そうとはしていない。
『結果的に』、失血死しただけのこと。
「なるほどな」
カロスタークは無表情で頷いた。
「君の部下たちにもさほど気を遣う必要がなさそうだ」
同じ立場に身を置いたのなら、同じ境遇で文句はあるまい?
「ッ!」
マルガリータの顔が歪む。
「そ、そちらは敗戦による捕虜。こちらは降伏しての捕虜だ。同じ境遇とは言えぬ!」
力づくで捕らえられたのと自主的に捕らわれたのとは同じではないと、主張するつもりのようだ。
「ま。それは君しだいだな」
部下に対しての処遇を気に掛け、こうして必死の抗弁もする。
敵には容赦しないが、味方は全力で守るタイプだ。
ならば、使い道はある。
「ど、どういうことだ?」
「君には情報源になってもらう」
帝国国内の情勢を知る者がいるといないのとでは、戦略の幅が変わってくるのだ。
内部情報と引き換えに、直属の部下たちの命を保証する。
悪くない交渉のはずだった。
「クッ、いっそ殺すがいい!」
帝国の他の部隊も仲間には違いない。
抵抗感があるようだ。
「仲間ごと皆殺しが希望か?」
マルガリータを殺すとなれば、その部下に価値はなくなる。
わざわざ飯を食わせるためだけに連れ歩くほどマヌケではない。
身代金の請求にも使えないだろうからだ。
「ぐ・・・」
言葉に詰まって項垂れた。
頭の中では、大きな天秤が上下動を繰り返していることだろう。
まずは、これでいい。
カロスタークは満足気に頷いた。
「殺すのはいつでもできる。まぁ、ゆっくり寛いでいるといい。遥々の遠征で疲れているだろうからな」
こうして、帝国軍5万は地上から消えたのだった。
読了・評価。ありがとうございます。




