第12話 高き所より見下ろす者は、しばしば足元に潜む影に気付かない ~後編~
2/4
「お、おのれ!」
思い出したように矢が飛ぶが、もう届く距離ではない。
「奇怪な真似をしおって!」
腹立たしげに罵声を飛ばす者もいる。
だが、それらも直後には消えた。
「キャハハハハハ!」
若い女の笑い声とともに、夜空が明るくなったのだ。
それもそのはず、頭上に巨大な炎が出現していた。
「ま、まさか?」
怯えた呟きがそこらじゅうでこぼれた。
そして、『まさか』が現実になる。
「全部燃えちゃえー!」
かつて、とある町でスラムを焼き尽くしたのと同様かそれ以上の爆炎が帝国軍に投げ込まれた。
「何考えてやがる! 町ごと焼くつもりか?!」
誰かが叫んだ。
もっともな疑問だが無意味でもある。
ここで一つ。
『帝国軍』にとっての哀しいお知らせをしなくてはならない。
彼らが通ってきた道は『行速』道路だ。
王国の各領地を最短距離で繋いだもの。
直接繋がっている町は『王都』のみである。
そして、隣接しているのは『宿場町』のみ。
宿場町は、その目的に照らせばわかる通り、壁などない。
であるのに、なぜか突然現れた城塞都市。
これは、どういうことなのか。
帝国軍は知らなかった。
どこに、町があるかを。
地図は軍事機密であり、他国には出回らない。
商人や旅人から聞き出しはするので、『この辺りにあるはず』くらいの知識はあるが、それだけなのだ。
帝国軍は知らなかった。
ミヌミエーラ男爵領とレッドルア伯爵領、そしてモンモラシー男爵領の貴族軍が土木作業のプロ集団と化していることを。
領内の力自慢や暇人の多くまでもが、そうであることを。
道を造り、畑を開墾し、宅地を造成し、最近ではそこに家を建て始めていることを。
だから、『行速』道路に沿う形で町があると知り、即座に占拠を決めた。
今夜は野営をしなくて済む。
飯も酒も、ついでに女も好きなだけ奪える。
食える、と。
もしも、以上のことを知っていれば別の判断をしていただろう。
ここに、町なんてない。
あるのは、数日で作り上げられたハリボテだ。
始めから、燃やすつもりで作り上げられた町なのである。
だから、簡単に燃える。
燃え方も計算されていた。
火は瞬く間に町の外周に回り、退路を断って燃え盛る。
悲鳴や怒号をも呑み込んで。
「う、嘘だろ……囲まれてる……!?」
「火が……火が迫ってくる! どこにも逃げ場が……!」
兵たちは混乱し、武器を捨てて走り出す。
だが、どこへ向かっても炎の壁が立ちふさがる。
まるで、地獄そのものだ。
「罠だ! これは罠だったんだ!!」
ようやく気づいた者が叫ぶが、時すでに遅し。
炎は風に煽られ、まるで意志を持つかのように帝国軍を追い詰めていく。
その様子を、遠くの丘から見下ろす影があった。
夜風に揺れるマントの下、ひとりの男が静かに呟く。
「ようこそ、そしてさようなら。……歓迎されざるお客人たち」
読了・評価。ありがとうございます。




