第11話 高き所より見下ろす者は、しばしば足元に潜む影に気付かない ~前編~
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敵の勢力圏にある町に入る。
当然に罠があることは予想された。
町の中に袋小路を作り、矢を撃ち込んでくるとか落とし穴かあるとか。
そういったことには充分な警戒をしていたのだ。
だというのに、何もなかった。
侵攻を止めるどんな障害もないまま、帝国軍は町の中へと進駐していく。
町の中心には、住民の憩いの場であると同時に各種イベンや軍の訓練にも使える広場が設けられていた。
動き回るのではなく、宴会を開くだけなのであれば5万どころか10万でも入れそうな広さがある。
その中央、女が立って待っていた。
「ようこそ、おいでくださいました」
優雅に一礼して、侵略軍を迎え入れた。
恭順の意志が固いことがうかがえる。
内心がどうであれ、だ。
広場にはテーブルが数十と並べられ、所狭しと食べ物が並べられていた。
もちろん、酒瓶の類も数えきれない。
「女たちは支度に手間取っております。今しばらくお待ちくださいますように」
広場の奥、大きな建物を指し示して再度頭が下げられた。
建物の中で、準備が進められているのだろう。
「まずは、食事とお酒でお寛ぎくださいますように」
三度、頭が下げられた。
「それは殊勝なこと。なれど、まずはお前さんに食べて飲んでもらおうか」
用意されている酒宴のテーブルから、適当に持ち出した料理と酒を老参謀が突きつける。
毒入りという古典的な罠の可能性を感じてのものだ。
「お客様のための物ではありますが、お望みとあれば、いただきましょう」
女は、躊躇うことなく食べて飲んだ。
その様子を見届けた帝国兵が、我先にとテーブルへと殺到した。
遠征中であり、ここまで略奪もできなかった。
肉やパン、何より酒に飢えていたのである。
「約束だ。相手をしてもらおうか」
降伏の使者を勤めていた男が、女に抱き着いた。
乳の匂いがする胸元へと顔を埋める。
「っ——?!」
男の体が小さく震えた。
女が優し気に頭を抱えこむ。
傍目には、男の求めに応じようという姿に見える。
だが、そうではない。
「女をいたぶるのがお好きなのでしょう? わたくし、そういう殿方は一目でわかるんですのよ」
クスッと笑って頭を撫でさする。
「そしてね」
耳元に口を近付けて囁く。
「そういう男を殺すのが趣味なのですわ」
「ゴフッ!」
女が離れると、男は泡立つ血を吐いて、地面に倒れた。
右の胸にナイフが刺さっている。
抱きつかれた時点で、柄も通れとばかりに突き刺さしていたのだ。
左ではないことで致命傷にはならず、さりとて深く刺さったナイフが肺を傷つけている。
大量の出血と、片方の肺が機能不全に陥ったことで息がままならない。
男は死ぬに死ねない苦しみに、溺れかけている。
「なっ?!」
「貴様っ!」
倒れた男に気が付きしかも胸にナイフが刺さっているのを見た者たちが、剣を抜き放って女を取り囲んだ。
「うふふ」
女は恐れもせずに笑っている。
そして——。
「ば、バカなっ?!」
女は宙に浮いた。
頭上から垂らされたらしいロープを掴み、片足を載せている。
吊るすための仕掛けがあるようだ。
「わたくしの出番はこれまで。御名残り惜しくはありますが、退場とさせていただきます。どうぞ最後の晩餐をごゆっくりお楽しみくださいませ。そんな時間があれば、ですが」
そう言い残して、女の体が空中を横に移動していく。
よく見れば、上空にロープが何本か張られているのを見ることができた。
何者かがロープを引いて動かしているのだ。
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