第28話 英雄と、永訣
ヴェルグ副団長の葬儀は盛大に行われた。
俺が驚いたのは、第二騎士団の団員も多く参列したこと。
あとから聞いたのだが、ヴェルグ副団長は元々、第二騎士団の出身らしい。
人々を守りたいと騎士になったのに、人を殺してばかりの日々。それに飽き飽きして、魔物から市民を守るための部隊として第三騎士団を立ち上げたのが、他ならぬヴェルグ副団長だったのだ。
俺は、ヴェルグ副団長について何も知らなかった。
その事実が、俺の胸に棘のように刺さっている。
ヴェルグ副団長の棺には、愛用の剣と鎧だけが収められていた。
いつも裸の俺も、今日ばかりは黒いマントを羽織らせてもらっている。
「ヴェルグ副団長は、私にとって、偉大な先輩であり、師であり、そして……父同然でした」
壇上でタキが弔辞を述べる。
黒いヴェールに隠された目元に、光る雫が見えた気がした。
第二騎士団の団員たちが、棺に縋りつく。
「ヴェルグさんが第三を設立するとき、もっと強く反対すれば……」
「東方征伐隊の元隊長が、片田舎の任務で殉職なんて……」
「せめて東方の戦場で死なせてあげたかった……」
お前たちに何がわかる。
気づけば俺の手は、わなわなと震えていた。
トニーが優しく俺の肩を叩く。その感触で我に返る。
「ヴェルグ副団長は、鬼の出現という、まさにルクシオン聖王国の存立を脅かす危機に立ち向かいました。
……そしてこれを鎮圧し、同時にその生命を落としたのです。
紛れもなく彼は、王国民を救った英雄でした」
タキが弔辞を締めくくる。
ヴェルグ副団長の死の真相は、第三騎士団の団長・副団長以外には伏せられていた。
表向きは、鬼との戦闘での殉職。
真実を隠したまま、葬儀は終わった。
式場を去る弔問客たち―――
――その中に一瞬、見慣れた顔が見えて、俺は式場を飛び出していた。
「カニ!?どこへ!」
トニーの言葉も俺を止めることはできなかった。
しかし、外に出たとき、その人はすでに影も形も見えなくなっていた。
だが、見間違えるはずもない。
あの顔、あの体格。特徴的な、頬の傷跡。
「………谷原、選手………?」
谷原将也。
野球選手。
高校時代は甲子園を夏春夏と三連覇。
そのままプロ入りし、ピッチャーとしてもバッターとしても破格の成績を叩き出す。
その才能は日本プロ野球界に収まらず、メジャーリーグへ。
メジャーリーグでも「谷原とは勝負するな」と囁かれたほどの、まさに日本野球界のヒーロー。
そして……
――明日の試合で僕がホームランを打ったら、手術を受けてくれるね?――
俺が改造手術を受けることになった、直接の原因である。
不穏な風が、俺の前をただ吹き抜けていった。
「……あれ以降、鬼化現象は確認されてない。
もちろん予断は許されないけど、ひとつ仮説がある」
団長、副団長、俺、クレインさんの集まりで、レイヴン副団長が淡々と話す。
「鬼化現象にはキャパシティのようなものがあるんじゃないか。
一般人の鬼化では村をまるごと滅ぼすほどの鬼化が起こるものの、膨大な魔力容量を持つヴェルグ副団長を鬼化させたことで、そのキャパシティの大半が消費され、結果的に鬼化現象が一時収束したのではないか」
レイヴン副団長の拳に、力が入る。
「あくまで推論だが、僕はこの仮説を支持したい。
………そうでなければ………何のために………」
その続きは誰も言わなかった。
「……そうだな……」
タキが同意する。
そのうえで、続ける。
「……だが、鬼化現象の原因がわからない……
今後10年は起こらないのか、明日にも別の場所で起こるのか、それさえもわからないのでは……」
タキの言葉に、空気が沈む。
鬼化現象と世界の歪み、そして怪人の関係については、騎士団のみんなに話していない。
話す勇気がなかった。
――……待っていてくれ。
怪人を全て倒したら、きっと打ち明ける。
そして最後の怪人も、消えるから。
倒すべき怪人はあと2体。
消すべき怪人は、あと3体。




