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第27話 カニと、最強の拳

 第三騎士団最強は、団長であるタキだ。


 だが、ことパワーで言えば、タキはヴェルグ副団長に遠く及ばない。


 しかも、鬼には魔力が通じない。


 魔力の扱いを心得ない一般人が鬼化しても、あれだけ厄介だったのだ。


 最悪の想像が俺達の脳裏を走る。


「じ、時間を稼ぎますわ!」


 クレインさんが飛び出す。


「ばっ、やめろ!」


 トニーの制止は一瞬遅かった。


 ヴェルグ副団長の拳が唸る。

 クレインさんは拳に触れていない。


 しかし拳の発生させた風圧は、体重の軽いクレインさんを吹き飛ばすのに充分すぎた。


「かっ……はっ……!」


 クレインさんが民家の壁に叩きつけられる。

 倒れ込み、立ち上がろうとするが、がくりと膝をついてしまう。


「ダントン!クレインをさがらせろ!」


 タキが指示を飛ばし、トニーがクレインさんのもとへ走る。

 そこへヴェルグ副団長の拳が迫る。


「カニ!」


 タキの声。わかってる!

 俺は二人とヴェルグ副団長の間に入り、壁になる。

 衝撃。甲殻が砕ける痛み。吹き飛ばされる。

 だがその間にトニーとクレインさんが避難する。


 ……剣じゃなくてよかった。

 剣での一撃を食らっていたら、俺はたぶん既に死んでいる。怪人をすべて倒すまでは死ねない。


 それでも俺は、甲殻が砕け、壁に叩きつけられている。


 俺は左だけとはいえ、ハサミでガードしていた。

 それなのに拳の衝撃はそれを突き抜け、ハサミだけでなく俺の全身の甲殻をボロボロにしていた。


 再生の粘液と煙が噴き出す。


「ヴェルグ副団長!帰ってきてくれ!!ヴェルグ副団長!!

 ……俺達にはまだアンタが必要なんだ!頼むよ!!」


 クレインさんを置いて戻ってきたトニーが呼びかける。


 帰ってくるのは、うわごとだけ。


 タキがつらそうに目を細める。


「……ダントン」


 拳を構える。


「……闘うしか、ない」


 一瞬、トニーが絶句する。

 しかしすぐに、自らの頬を両手で叩き、再び構えをとる。


「……了解。タキ団長」


「……『アルタキア団長』、だ」


 俺もハサミを構える。

 ガクガクと足が震えるのは、ダメージのためだけではない。

 だが、闘うしかないのだ。


「……カニ。まだ、盾になれるか?」


「……大丈夫らいじょーぶ、って言いたいけど……」


 甲殻の再生に時間がかかる。破壊が大きすぎる。


「……さっきの、もういっかいは、きつい」


「そうか」


 タキが思案する。


 ヴェルグ副団長が、ゆっくりと迫ってくる。


「私とトニーが5秒稼ぐ。その間に、ふところに飛び込め。

 ヴェルグ副団長といえども、懐への殴打は威力が下がるはず……!」


 正直不安だが、それしかない。

 俺はコクリと頷く。


「行くぞ!」


 タキとトニーが飛び出す。

 繰り出される拳。

 タキとトニーはやや大きく回避。風圧が二人を襲うが、この二人は風圧だけでは止まらない。

 姿勢を低く、回転して風を受け流し、交互に拳を叩き込む。


 だが魔力のこもらない拳は軽い。

 繰り返してもほとんどヴェルグ副団長を下がらせることができない。


 ヴェルグ副団長は、まとわりつく二人を倒そうと、両の拳を振り降ろす。


「今だ、カニ!」


 その隙をついて俺が組み付く。

 殴られる。しかし、さっきより余程軽い。

 甲殻が少しずつひび割れる、それだけで済む。


 だが、俺一人では押しきれない。徐々に後退させられる。


 これで、吹き飛べ!


衝撃災禍ぉニックハぁード!!」


 轟音。

 右のハサミから、必殺の衝撃波を、土手っ腹に打ち込む。右腕の甲殻がバキバキに砕ける。

 ヴェルグ副団長が吹き飛ばされ、石垣に激突する。

 その体はバラバラになったはずだが、やはり五体満足かのようにまとまっている。鬼の不思議な力。


 だが、あの位置!あそこで食い止める!


 衝撃で動けないヴェルグ副団長の懐へ、俺が再び滑り込む。


「タキ!トニー!!」


 俺は叫ぶ。


おで殴れ(なぐぇ)!!」


 瞬間、二人が意図を察する。

 迷いなく、突っ込んでくる。


「「おおおおおおおお!!」」


 魔力を込めた連打。俺の背中に。


 魔力のこもった攻撃そのものは、鬼には通じない。

 しかし、間に俺を挟むことで、純粋な衝撃だけを伝えることができる。


 甲殻が割れる、激痛の嵐。

 だが、食い止められている。ヴェルグ副団長も動けない。


 鬼が消えるのが先か、俺達が力尽きるのが先か。

 根比べだ!


 根比べは数十秒にわたって続いた。

 ヴェルグ副団長は鬼化してから一度も魔力を補給していない。

 さっきの老婆より早く消えるはず。早く。早く。早く!


 だが、消えない。姿はブレつつも、立っている。


 ――……まさか。

 ヴェルグ副団長は元々の魔力が大きい。

 そのために消滅までの時間が長いのか!


 気づくと同時、俺の脚がもつれる。

 うっかり、ではない。体力の限界。

 俺という遮蔽物がずり落ち、二人の殴打も止まる。


 まずい!ヴェルグ副団長が解放される!


 崩れ落ちる直前、俺は泡をヴェルグ副団長の顔面に吐きかける。

 ヴェルグ副団長が目を瞑る。

 一瞬でも時間を稼げ!


 だがヴェルグ副団長は俺を蹴飛ばし、まっすぐタキに向かう。

 万一、タキが捕食されたら。


 最悪の想像が脳裏をよぎる。


 ヴェルグ副団長の姿が大きくブレる。

 あと数秒。あと数秒あれば。

 タキはヴェルグ副団長の攻撃を回避する。だが、いつまでもつ?


「カニ、来い!」


 トニーが俺を担ぐ。

 タキを追いかけるヴェルグ副団長を、俺達が追いかける。


 タキがこちらを見て、特大のアクロバットを決める。

 ヴェルグ副団長の頭上を飛び越し、俺達のほうへ。


 ヴェルグ副団長がこちらへ向かう。


「カニ!あと一発だけ、やれるか!?」


 上等。

 右のハサミを前へ向ける。

 本日二発目――!


衝撃災禍ぉニックハぁあああード!!」


 再びの轟音。

 俺の右のハサミが完全に砕け散り、俺は利き腕を失う。

 ヴェルグ副団長が大きく吹っ飛ぶ。倒れて、動かない。

 やったのか。


 ――ヴェルグ副団長は、それでも立ち上がった。

 そして。


 「ダントン……嬢ちゃん……」


 たしかに、言った。


「……………強くなったな」


 そうして、ヴェルグ副団長は、完全に消滅した。

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