第22話 カニ、誘われる
「なあカニ。お前、スポーツって興味あるか?」
急にどうした?
珍しく、ガルドが積極的に声をかけてくる。
スポーツかぁ~。元の世界に居た時は野球とか見てたんだけど、自分でやるのはからきしだったな。
……この世界に来たきっかけも、野球選手だったなぁ。第1話参照ね。
「エルナタウンのグラウンドで、カバスッカーの試合があるんだよ。トーナメントで、明日から一週間くらいだな」
……カバスッカー?
聞きなれない単語だな。言いにくくない?
「あれ、お前カバスッカー知らないのか。……あ、お前の元いた世界にはなかった?」
ガルドから説明を受ける。
あ~、なるほどね、コートを二つに分けて……攻撃選手が守備のコートに入って……ああ、その間はずっと「カバスッカー」って言ってなきゃいけないのか。
ふーん、ボールをゴールに……ほほう、守備は手でボールに触っちゃいけないんだ。
で、攻撃手に触られた後、ゴールされるとコートの外に出ないといけない……
なるほど、だいたい理解した。俺の元いた世界で人気があった、野球以外の3種のスポーツを組み合わせた感じだな。つまり、バスケと、サッカーと、カバディを。
「面白そうな話をしているな」
「ッどわぁ!?アルタキア団長!?」
いきなり背後から声をかけてきたタキに、ガルドが慌てる。
ガルドはタキの隠れファンだからなぁ。それにしても慌て方が過剰な気がするが。
「……?
それ、私も行っていいか?スポーツ観戦というやつに興味があるんだ」
「も、も、も、もちろんッすよ!喜んで!!」
おっさん顔赤いぞ。
こうして俺たち三人は、カバスッカーの試合を見に、エルナタウンのグランドにやって来たのだ。
「皆様、ご来場ありがとうございます!
カバスッカー・ルクシオンリーグ・エルナ杯トーナメントは本日スタート!
さっそく第一試合を見ていきましょう!
まずは赤コーナー!西方タイガース!」
司会者が威勢よく盛り上げる。
……が、意外と観戦者の数は多くないな。空席が目立つ。まあ、別にいいんだけど。
赤コーナーから西方タイガースの面々が入場する。控え含めて10名。
一度に試合に参加するのは6人なので、10名いれば結構足りちゃうのだ。その分、メンバーは精鋭ぞろいだ。
「しかしアルタキア団長。こんな急に出て来ちゃって大丈夫だったんですか……?」
「ん。仕事はダントンに任せた」
「トニーの奴ならうまくやりますもんね!」
……トニーの苦労が偲ばれるなぁ。彼、あれでいつも結構疲れてるんだよ?
「続いて青コーナー!ジョン&ブラザーズ!」
外資系みたいな名前のチームだな。
だが無理もない。メンバー全体の実力が平均的に高い西方タイガースと違い、ジョン&ブラザーズはジョン一強。ジョン以外のメンバーも実力はあるが、ジョンのサポートを優先し、ジョン中心で動くチームなのだ。
「「「「「「「「「「「「よろしくお願いします!!!!!」」」」」」」」」」」」
「試合開始ィ!!」
試合が始まる。西方タイガースはキャプテンのブリリオンが初回攻撃だ。
……すごいドリブル!ボールに触らせないつもりか。おお!そこでそっちに跳ぶのか!あ、そこでさっきのトラベリングが効いてくるわけだ。なるほどなぁ。
感心していると、ジョンがブラザーズから飛び出す!キック一閃!ボールが吹き飛び、ブリリオンの攻撃は終わってしまった。
いや、ブリリオンの技術も卓越していたが、ジョンは凄いな。花形スターというだけはある。
タキもガルドも興奮して見ている。
いつの間にかタキはポップコーンを手に持って、ボリボリと頬張っている。
試合に夢中なため、手元からボロボロとこぼしている。
興奮と熱狂の中で、試合は終わった。
結果は5-7でジョン&ブラザーズの勝利。
いやあ、いい試合だった。俺、ジョンのファンになっちゃったよ。
「次の試合もこの後すぐなのか!?ちょっとトイレに行ってくる!」
タキが興奮冷めやらぬまま席を立つ。
……その時、ガルドがにやりと笑った。
俺に近づき、俺の背に腕を回す。
「……なあカニ。お前、今の騎士団の給金に、満足してるか?」
小声で問いかけてくる。
え、急に何?
というか俺、給金貰ってないんだよ。
正式には騎士団員じゃなくて、まだ「被告人」の身分なんだよね。
タキやトニー、たまにヴェルグ副団長から、お小遣いくらいは貰ってるんだけど。
「ンなッ、マジかよ!?お前、それじゃあ好きなモンとか全然買えなくねぇか!?」
……ん-。
実はちょっと、気になってはいたんだよね。
いや、俺自身はこんな体だし、買い食いする以外、あんまりお金の使い道とかないんだけどさ。
……俺、タキに、月狼の毛皮のポーチ、貰ってるじゃん?
タキの手作りの。
なんかしら、お返しをしたいとは思ってるんだよ。常々。
でも、俺のこのハサミの手で手作りってワケにはいかないじゃん。挟んで切るしかできないからね。
想像以上に不便よ?カニの手って。ジャンケンもまず負けるからね。
だからさ。何か買いたいんだけど、女性に贈り物するにはさすがに懐が、ね……
「……カニ。ここだけの話なんだけどよ」
耳元で囁く。おっさんの誰得ASMR。
「儲け話があるんだよ。絶対に損にならないヤツ。
……明日、時間作れるか?いい人に会わせてやる」
そこでタキが戻ってきた。手にはまたポップコーン。さっきのと違う味を買ったらしい。
俺は無言で、ガルドに向けてうなずいた。
そして翌日。
昼食の後、俺はガルドとともに、エルナタウンの外れにある酒場を訪ねた。
来た事のない店だ。タキはあんまりこういうとこ来ないし。
……というか、日中はやっていないみたいだ。CLOSEDの表示にも構わず、ガルドは中に入っていく。俺もそれに続く。
中で待っていたのは、とんでもない人物だった。
「ジョ、ジョ、ジョ、ジョン選手!!!?」
でけぇ声出ちゃったよ!昨日の試合で大活躍してたジョン選手だよ!!
うっわ、マジ、近くで見るとオーラやっべ。
ムッキムキじゃん。いや騎士団もみんなムッキムキなんだけど。
「初めまして。驚かせてしまってすまないね。座って座って」
白い歯がキラリと光る。
やだ~~~優しい~~~メロい~~~!大ファンです!握手してください!
あ、俺の手ハサミか。
興奮していると、ジョン選手が語り掛けてくる。
「ガルドくんには話してあるけど、カニくんのためにもう一度説明するね」
ほんと~~~?俺のために説明してくれるの~~~???
「カニくん。スポーツ賭博って、わかるかな?」
うんっっっ!!
…………ん?賭博?
話を聞くと、こういうことだった。
つまり、今回のエルナ杯において、裏で賭博が行われている。
そして、その賭博市場に近年、活気がないということのようだ。
賭博はこの国ではグレーで、あくまで裏。
発見されたらややこしい。
それに加えて、別で公営のカジノができたことで、カバスッカー賭博の魅力が減ってしまっているというのだ。
「そこで君たちだ」
まがりなりにも騎士団員であるガルドや俺が、カバスッカー賭博に参加していることを裏でアピールし、クリーンイメージでカバスッカー賭博市場に人を呼び戻そう。
ひいては、それがカバスッカー自体の活気にも繋がってくるんだ、ということだった。
そんな上手くいくかなぁ?
「いくとも!特にカニくん!君はマスコットキャラとしても優れている!
一見グロテスクだが、どこか愛嬌のあるビジュアル!キモカワ!
もしかしたら未来においては、君のようなキャラクターがスポーツチームごとに作られる時代が来るかもしれない!」
あ~~~、そういう世界もあるよね。
っていうか、やっぱ俺ってマスコット系?可愛い系?
面と向かって言われると照れちゃうなぁ。
「もちろん、報酬は支払う!!次の試合、賭博の胴元収入から10%を君たち二人にそれぞれ支払おう!!」
……マジ???
いやでも、賭博かぁ……。
俺、野球選手の言う事は聞かないって誓ったし……。
「まあ、ちょっとくらいならバレねぇし、大丈夫だよ。
俺もはじめてだけどよ」
ガルドのフォロー。そして……
「頼むカニくん!このまま活気がなくなれば、スポンサーも撤退し、カバスッカーの未来はない!
俺はカバスッカーを続けたい……!カバスッカーの未来を守ってくれ!!」
ジョンは野球選手じゃなくてカバスッカー選手だから、いっか!
こうして俺たちは、エルナ杯の賭博を盛り上げていくこととなったのだ。
「さあ、毎年恒例、エルナ杯カバスッカーギャンブル!今日の2回戦も盛り上がっていきましょう!
司会は私、第三騎士団のガルドがお送りします!」
次の日、俺たちは例の酒場で、賭博の参加者たちをもてなしていた。
「2回戦に勝ち残ったチームはこの16チーム!
私の推しはなんといってもジョン&ブラザーズです!
どう思いますか、マスコットのカニオンくん!」
「カニカニ~!」
……うん、俺の立ち位置は今のセリフでわかってもらえたかと思う。
しかし、なかなか盛況だ。
酒場いっぱいに人が来て、我も我もと賭けに興じている。俺たちの参加がどれだけの効果をもたらしているのかはわからないが……。
あれよあれよという間に、試合の時間が近づいてきた。
俺たちは参加者の賭け金を胴元に預け、参加者とともにグラウンドへ向かうのだった。
あ、ちなみに試合開始後もハーフタイムまでは賭け金を受け付けている。ガルドにお金を払ってチームカードを買ってね。君も一口どうだカニ?
「さあ始まりました。カバスッカー・ルクシオンリーグ・エルナ杯トーナメント第2回戦!
第一試合は~~~!
赤コーナー!ジョン&ブラザース~!!
青コーナー!東方ドラゴンズ~!!」
試合が始まる。やっぱりジョンは凄いなぁ。
うわっ、なんだあのアクロバット。あの技、タキならできるかな。できるかもな。
つつがなく試合が進んでいく……と思いきや、事件は起きた。
「うわぁぁあああ!!魔物だぁぁぁああああ!!」
あ、俺かな?俺はね、魔物じゃないよ。
エルナタウンの人たちは知ってるけど、外から観戦に来た人たちは馴染みがないかも……
「ポイズンチワワだ!逃げろ~!!」
……別件か!
なんと、紫色の犬が試合会場に乱入してしまったのだ!
「ガルド、行くよ!」
「お、おう!」
俺たちはポイズンチワワを追う!
だが、プライベートで来ているので剣もない。ポイズンチワワは毒を吐くのであんまり接近できない!
なんとか逃げないように試合場と観客席の間、壁際に追い詰めるが、これ以上手が出せない。困った!
衝撃災禍を使うか?
いや、アレを使うと毒が飛び散ってしまう。この後の試合に差し支える。
賭博が台無しになってしまう!
「……お前ら何やってんだ?」
背後からの声に、俺たちは青ざめた。
「お前ら……今日、非番じゃないよな」
……トニー……!
「あっ、あ、トニー……!実は、魔物が出たって通報を受けてよ。慌てて飛んできたんで、こんな格好で……」
「なんで任務中に私服で、剣も持ってないんだよ、ガルド?」
「か、カニカニ~!」
「お前は本当にどうしたよ、カニ?」
話に気を取られていると、ポイズンチワワがなんとガルドが持っていたカバンに噛みついた!
「こっ、こら!やめろ!放せ!!」
瞬間、トニーの剣がポイズンチワワの脳天を切り裂き、毒を吐く間もなくポイズンチワワは絶命した。
しかし、ガルドのカバンは……
「あ、あわ、あわわわわ……トニー、これは、違うんだ。その、なんていうか……違うんだ」
「か、カニ~……」
中身が、ぶちまけられてしまっていた。散乱する、金、賭博用のチームカード……
「……なんだこの金。それに、チーム名の書かれたカードが、こんな沢山……」
トニーが、俺たちを睨む。
「お前ら、賭博やってたな?」
……トニーのお説教は夕方まで続いた。
非番の団員にお金を払って任務を代わってもらったのも規律違反だし、ルクシオン聖王国の騎士団員ともあろう者が賭博に関わるなんて、ということだ。
一言一句、なんの反論もできなかった。
結局、俺たちはお小遣い没収。ジョンや胴元はカバスッカー運営からきつくお叱りを受けたらしい。
後から聞くと、そもそもカバスッカーが不人気なのは純粋にルールがわかりにくいからで、賭博云々は全然関係ないらしい。なんだったんだよ。
誓う。俺はもう二度と、スポーツ選手の言うことは聞かない。
「カニ。ガルドから聞いたけどよ。お前、タキ団長にプレゼント買いたかったんだって?」
説教の後、トニーが話しかけてくる。
「今回の件は、うまく誤魔化しておくけどよ。タキ団長は、プレゼントのお返しがないとか、そんなこと気にしないと思うぜ」
……そりゃ、それは、わかってるんだけどさ……
夜。寝室。
「聞いたぞ、カニ」
タキの言葉に、俺はドキリとする。
「私にプレゼントを用意したいけど、お金がないとかボヤいてたんだって?」
ニヤニヤと笑みを浮かべて、俺の隣に座る。
……賭博の件を聞かれたのかと思った。そうじゃないのは、一安心。
「馬鹿だなぁ。私はな、お前がこうしてそばに居てくれる。それだけでいいんだ……」
タキの言葉が胸に沁みる。
それと同時に、俺の中で、もう一つの、言葉にできない、してはいけない気持ちが渦巻いていた。
……タキ、違うんだ。
だからこそ、なんだ。
俺は近いうちに、すべての怪人を倒して……消える。
君のそばに居られなくなる。
だからこそ……何か一つでも。
君に残したかったんだよ。




