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第19話 第三騎士団とスカンク

此度こたびの怪人事案、第三騎士団は総出で対処にあたる!」


 タキが高らかに宣言する。


「……え、でもカニくんが単独で倒しかけた相手だよね」


 レイヴン副団長の反応は冷ややかだ。


「何が言いたい、レイヴン()団長」


 「副」を強調した言い方。あの、タキさん?


「過剰反応だと思うんだよねェ~~~。いくらお気に入りのカニくんが地味なブ男に変えられたからって言っても、さァ」


 あの、喧嘩はやめて。二人を止めて。

 あと流れ弾がすごいんだけど。


 タキがふん、と鼻を鳴らす。


「おやおや、()団長殿は、三角鹿トリプルホーンディアーの一件の報告をよくご覧になっていないご様子だ」


「あ゛?」


 私のために争わないで~~~~


「たしかに怪人は弱く、手負いだ。

 だが、その体内には『賢者の石』があるはず。

 もしあの怪人が魔物にほふられ喰われたら?

 まったく別の、未知の脅威として市民を脅かすことがないと、なぜ言い切れる?」


 レイヴン副団長が言葉に詰まる。


「その前に騎士団総出で捜索し、奴を討伐。『賢者の石』を回収するというのが、今回の作戦の概要だ。

 理解したか?」


 ……言ってることは正しい。正しいが……

 普段のタキじゃない。普段ならレイヴン副団長の嫌味にも、こんなふうに嫌味で返したりしない。しっかりと耳を傾けて、冷静に対応しているはずだ。

 ……イラついている。


「ガッハッハ!今回は嬢ちゃんの勝ちだな、坊ちゃんよ」


 ヴェルグ副団長が重い空気を笑い飛ばす。


「だがな嬢ちゃん。騎士団総出ってのはいささかやり過ぎだ。

 怪人の捜索に何日かかるかわからんのに、その間、エルナタウンや、その先の村々の守りがなくなっちまう」


 レイヴン副団長がブンブンと頷いている。


「怪人が捨て置けんのは確かだ。どうだ、レイヴン隊だけ周辺の守りに残して、それ以外の人員でリュウガ森を捜索するってところで、手を打たんか」


「タキ団長。俺もそれがいいと思いますよ」


 トニーのフォローもあり、タキはしぶしぶ納得した。


 ……正直、そっちのほうがありがたい。

 今のタキとレイヴン副団長が一緒に捜索に出たら、森の中で延々喧嘩しかねない。

 そんな状況で、怪人が見つかるとも思えなかった。





 そんなこんなで、リュウガ森。

 俺たち第三騎士団総勢35名(除:レイヴン隊)は、スカンク怪人の捜索に来ていた。


「スカンク怪人はおそらく尻から、例の臭いガスを出します。

 人間にとっては臭くて鼻や目に染みるだけですが、煙幕として視界を遮ってくるので厄介だと思います。

 あと、俺たちと戦ったときは尻尾で何かしようとしてました。尻尾はタキ……アルタキア団長が切り落としたけど、再生している可能性もあるから要注意です」


 道中でみんなに再度説明する。

 喋れるって、意思伝達がすごくスムーズだね!

 カニ状態なら10分以上かかるぞ、この説明。


 俺は午前中に剣を握ってみたものの、まるっきりモノにならないとトニーに呆れられたので、後方支援兼怪人探知機としての同行となった。

 感覚的な話だが、俺の中の賢者の石は「止まってる」という感じで、「死んでいる」わけではないので、怪人が近づけば共鳴自体はする……という気がするのだ。


 そういうわけで、総勢35名を3つの分隊に分けて俺たちは行軍する。

 タキと俺の隊、トニーの隊、ヴェルグ副団長の隊だ。


 ヴェルグ副団長は(信じられないことに)邪悪な気配は肌でわかるから、たぶんスカンクが近づいたらわかっちゃうと思う。

 トニーは……まあ、ああ見えて場の回し方は上手い。なんとかするだろう。


 しばらく歩き回る。反応はない。歩き回る。見当たらない。

 …………

 あれ、作戦ミスったかも。


 俺たちタキ分隊は、森の中の少し開けた場所に荷物を下ろし、一時休憩をとることとした。

 ……っていうか足痛い。人間の足ってこんなに弱かったっけ。

 いや、俺以外の騎士団員はみんな平然としてるから、俺が弱いだけ、か……。


「ふぅ~……足痛ぇ~」


 ガルドもボヤいてるから、みんな我慢してるだけみたい。


「カニキ、お疲れ様っす!これ、ハチミツレモン水っす!」


 ありがとうビル~……っていうかそれ、後方支援係の俺の仕事じゃんね。ごめんよ。今手伝う。


「一緒に配りましょ、カニキ!」


 ほんといいやつ。出会ったときが嘘みたいだ。


「それを言ったら、カニキも文字通り見違えましたよ~!でも、どんな姿でもカニキはカニキっす!」


 俺は涙をこらえながら、ビルとともに団員たちにハチミツレモン水を配った。

 タキはそれを、無言で受け取った。

 ……うう、なんだか……気まずい。


 休憩中、唐突にそいつは現れた。


「ハァ~ッハッハッハッハ!!」


 皆の視線が、森の中の一点に集中する。白黒の毛皮に覆われた、人型の異形いぎょう


「俺はゴーゴンの改造人間、スカンク怪人!

 俺のガスは怪人の変身機構に作用し、変身を強制解除、停止させるのだ!」


 スカンクは親切に能力の説明をしてくれていた。


「隠れて見ていたが、あのカニ以外に怪人はいないようだな!

 俺を倒さない限り、あのカニは変身できん!貴様らの戦力は、今や旧人類のみ!

 隠れている間に尻尾も再生した!

 俺は、二度も旧人類に負けはせん!!」


「この世界を怪人の支配下――ブゲッ!?」


 言葉の途中。

 タキが無言で一歩踏み出し、次の瞬間、スカンク怪人を殴り飛ばしていた。


「え、ちょっと。痛いじゃん」


 転がったまま場違いな言葉を吐くスカンクに、タキがツカツカと近づいていく。


「お、俺の尻尾の能力を見ろ!棘々毛針ニードルショットガン!」


 スカンクの尻尾から、散弾銃のように毛のトゲが飛ぶ!

 スカンクの性質を考えると、おそらくは毒針!100はあろうかという毒針が、高速でタキに飛来する!


 タキはそれを、一刀のもとにすべて撃ち落とした。


「……え?」


 タキの歩みは緩まない。

 あっという間に肉薄する。


「……あの……もしかして怪人がいなくても強い人たちなんですか?」


「当たり前だろうが!!」


「毒ガス噴射!!」


 スカンクがガスを噴射する。黄色い煙が立ち込め——


「ダントン!ヴェルグ副団長!!」


「「あいよ!!」」


 タキの号令で、いつの間にか近くに来ていた二人が動く。

 新兵器の突風発生装置……という名の、巨大団扇(うちわ)


「「ムゥウウウウン!!」」


 二人の剛力で扇ぐと、それはまさに突風発生装置だった。

 風が吹き荒れ、木々がしなる。毒ガスはあっという間に霧散した。


「……で、それだけか?」


 タキが剣を構えて迫る。


「……あの、すんません。許してもらえたりとか」


「するわけないだろう!!」


「ゴーゴン万歳~~!!」


 見苦しい命乞いに耳を貸さず、一閃。

 いや、まだ剣振ってるな。まだ振ってる。……もうよくない!?

 スカンク怪人はあえなく、バラバラにされてしまったのだった。


 地面に広がる赤い染み。ほぼ、挽肉ミンチ。うう、グロい。

 それもすぐに、白い泡となって消え、後に残ったのは赤く輝く賢者の石ひとかけらだった。


 俺の体が赤く輝く。熱い。白い煙を噴きだす。

 痛い。皮膚の下、何かがうごめく。

 俺の皮膚を突き破り、赤い甲殻が出現した。左手より大きな右手。ハサミ。

 慣れ親しんだ、カニ怪人の姿だ。


「うぉおおおおおお!!カニキ!カニキが元に戻ったァ~~!!」


 正確には、さっきまでの人間の姿が、「元の」姿なんだけどな。


 ツカツカとタキが近づいてくる。

 え、何?俺も斬られたりする?


 びくびくしていると、タキの手が伸びてくる。

 そのまま、俺の頭へ。わしわしと撫でてくる。

 ちょっと!恥ずかしいんですけど!!


「カニぃ~~~!やはりお前はその姿が一番だ!」


 珍しく満面の笑みで、タキはそう言った。

 うれしいやら、照れくさいやら……


 その後ろで、ガルドがすごい目で俺を見てくる。嫉妬か?見苦しいぞ。

 その横で、ミリアが笑顔で泡を吹いている。お前はカニじゃないんだから、泡はしまいなさい。はしたないよ、16歳の娘が。


 そしてトニーは、やはりニコニコと——どこか安心したように、俺たちを見つめているのだった。






怪人File.5 スカンク怪人

 ゴーゴンの改造人間。本名、御手洗みたらい官九郎かんくろう。42歳。

 改造モチーフはシマスカンク。

 ゴーゴンが、バッタ怪人対策のために生み出した怪人。それゆえ、他の怪人の賢者の石の機能に干渉し、変身解除・変身不能を引き起こす毒ガスを体内で製造し、噴射する能力を持つ。

 毒ガスは本人以外の怪人全般に有効なうえ、目や鼻に作用する刺激性を持つため、集団での作戦には不向き。

 尾には毒性のある毛針を射出する機能「棘々毛針ニードルショットガン」も装備されている。

 気が弱いわりに、調子に乗りやすい。

 対バッタ怪人戦では、バッタ怪人を変身解除に追い込み、勝利したかに見えた。

 しかし、変身を解除したバッタ怪人、そしてそれに協力する人間たちの力により打倒され、死亡。異世界転移した。

 バッタ怪人が初めて人間態のまま倒した記念すべき怪人でもある。

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