第13話 カニ、警備任務へ
「小汚い泡をありがとう、不細工なカニくん。お陰でずいぶん楽になったよ」
一言二言余計じゃないですかぁ???
俺は、吐き出した泡を水で薄めて、みんなに配っていた。
薄めた泡で体を洗うと、キノコの胞子が急速に死滅していくようだ。
ちなみに、薄め具合はビルにちょっとかけてみることで確かめていた。
……しかし、そんな必要はなかったかもな。
キノコ怪人が死んだ後、森のキノコがみるみる萎んで、枯れていっていた。
おそらく、司令塔である奴がいなくなれば死滅するようプログラムされているんだ。ゴーゴンの安全装置。
「……あ、まずい」
レイヴン副団長が焦りを見せる。
「えーと、カニくん。君、みんなを担いで走れるかい?」
無茶を言う人だなぁ〜。俺、右腕ないのよ?
「悪いが無理でもやってくれ。少なくとも開けた場所に出る必要がある。今すぐだ」
なんで?
「木の中身が菌糸に入れ替わっているのを見たよね」
……………あ。
ミシ、ミシミシという音が、俺の耳にも聞こえる。
見上げると、木々が……傾いてきていた。
「その菌糸が死滅して、木の強度が急速に落ちてる。そろそろ倒れてくるよ」
は・や・く・言・え〜!!
……いや、言ってたのか!ごめん!
「……ワシは木が倒れてきたくらいでは死なんから後回しでいいぞ」
ありがとよジイさん!でも置いていけるかァ!!
無理をして背中に3人。腹のところの6本の小さい脚でビルをなんとか抱えて、走る!
「いででででで!カニキカニキ!これ痛い!食い込む!マジで!!カニキってば!!」
うっさい、我慢しろ!
こうして俺達はなんとか、倒壊する森を後にしたのだった。
第三騎士団の詰め所。
レイヴン特別選抜隊は全員が当面、療養することとなった。
幸い、血液検査の結果、キノコの菌はみんな死滅しているとのことだ。
「だが、万事解決とはいかん。木々が崩れたように、森そのものが破壊されたんじゃ。
壊れた環境は一朝一夕で元には戻らん。竜どももすぐには住処に戻れまい」
とは、ヴェルグ副団長の談。
「すまんな、そんな大変なときに私が不在で……」
タキの悔しそうな顔。
……というかタキ、もう立ち歩いていいのか?
「ん?ああ、問題ない。まだ戦えるとは言い難いが、日常生活に支障はない」
「俺はまだまだ無理で〜す。タキ団長の回復力はおかしいと思いま〜す」
トニーが茶々を入れる。
「アルタキア団長と呼べダントン。お前が軟弱なんだ」
トニーの脚をタキがこづく。トニーが痛みに目を見開いて絶句する。
やめたげてよぉ。
「……そうだ。せっかく動けるんだ。頑張ったお前たちに私が料理を振る舞ってやろう」
……え?なんて?
「……アルタキア団長の手料理ィ?」
レイヴン副団長が顔を歪める。
「ガハハ!お嬢の手料理とは久しぶりじゃな!皆、心配するな。お嬢の料理は普通にウマいぞ!」
「『普通に』は余計です」
言いながら、タキはエプロンを着ける。白い、シンプルなエプロン……
いやよく見ると普通にちっちゃいクマちゃんついてるな。
クマちゃんエプロン氏が医務室を出ていってしばらく。
「……皆様、申し訳ありませんでした。私は今回の任務でなんのお役にも立てていません……」
クレインさんの謝罪。
「そんなことは……」
「いや、嬢ちゃんが居たからこそ、ワシらはキノコの毒に早めに気づけたんじゃ。
ワシらだけだったら、致命的になるまで竜の死骸を調べてたかもしれん」
「……………炭鉱のカナリアですか、私は」
一同に笑いが漏れる。
「まあ、今回のMVPはなんといっても俺っすかねぇ〜!マスクも役に立ったし、最後、逃げるキノコに組み付いて決め台詞『逃げられねぇよ、第三騎士団からは』!」
……なんか俺の聞いたセリフと違うんだけど、あれは幻覚か?
「調子に乗られないでください。MVPは当然レイヴン様です」
「当たり前のことを言うなクレイン。僕はいつだって最高さ」
「ああ……レイヴン様……」
「いやはや、小僧もなかなか根性がすわっておって良かったぞ!ガハハ!」
空気が軽くなった。よかった。
「……カニくん」
レイヴン副団長、なんでしょうか。
「今後は、僕が『撃つな』と言ったら撃つなよ」
………あのときはもう、無我夢中だったし、言うの遅いし………
「……今回は助かった」
「………ぇ?」
聞き返しても、同じ言葉は二度と返ってこなかった。
そんな話をしているうちに、タキが帰ってきた。
皿に盛り付けられ、みんなの目の前に出されたのは……
「さあ、食べるといい。栄養があるからな」
キノコの、リゾットだった。
「…………こ、これだから平民は……デリカシーってものが……」
レイヴン副団長がぶつぶつとボヤく。
クレインさんは固まっている。
「ガッハッハッハ!それでこそお嬢だ!」
ヴェルグ副団長は大笑い。
ビルはすでにがっついていた。
俺が固まっていると、タキが俺の横に来て……
「ほれカニ。あーん」
空気が、固まった。
ヴェルグ副団長までもが、口をあんぐりと開けて絶句している。
「じょ、じょ、嬢ちゃん……」
「そんな、まさか、カニキ……いつの間に……」
「平民は……カニと……?!」
「坊ちゃま、お気をしっかり持って!」
「うるさいクレイン!僕は冷静だ!」
「お顔が真っ赤ですわ!」
「………何を驚いている。カニは今、利き手がないんだぞ。食べさせてやらねば食べられんだろうが。ほら、あーん」
あの、タキさん……カニにも羞恥心ってものがあります……!
みんなが、みんなが見てるよぉ……!でも、でも……っ!
「おいひ、おいひぃ」
「それは良かったな」
絶句する皆の中で、トニーだけは俺達を、にこにこと好ましげに眺めていた。
「すまんな、カニ。私はまだ現場には出られん。
………いや、もう体は大丈夫なのだが、医療班がうるさくてな」
「当ッッッたり前でしょ団長ォ〜〜!!あんたまだ骨が繋がりきってないんですッッッ!!」
「……ほらな、うるさい。ダンベルまで取り上げられてしまう有様でな」
「病室のベッドの下に何隠してんですかぁ〜!!今度やったらレイヴン副団長の痛み止めを抜きますからねッッッ!!」
「えっ僕っ!?」
「……というワケなので、今度の任務は他の団員と組んでもらう。配置はもう決めてあるから。頼んだぞ」
そういうわけで、俺は森の外縁警備の任務についている。俺は、というより、動ける第三騎士団員は全員だ。
環境が激変した森から魔物が街へ迷いでてこないよう、見張らなくてはいけない。
森は広く、騎士団は人員不足なので、三人一組で間隔を開けての警備となる。
「わ、わたしっ!ミリア・エーベルハルトといいますっ!
この春から第三騎士団所属で、えと、アルタキア団長に憧れて……よろしくお願いしますっ!」
元気いっぱいが空回りしている感じの少女。
「………ガルドだ」
愛想のないおっさん。
その2人が、俺のパーティメンバーとなった。
………うまくやっていけるかなぁ〜???




