第1巻 第98讃歌 アグニ讃歌
1 願わくは、我らが常に
万民の友たる火の
恵みのなかにあり続けますように。
然り、彼こそは
あらゆる生きとし生けるものの
至高の王なり。
ここ(祭壇)に命を受けて生まれ出で、
彼はこの万物のすべてを見つめる。
ヴァイシュヴァーナラは、
太陽神とその輝きを
競い合うのだ。
2 天空に存在し、大地に存在し、
あらゆる場所に遍在するアグニ――
地上に育つあらゆる植物のなかに、
彼は染み渡っている。
アグニが、ヴァイシュヴァーナラが、
その大いなる活力をもって、
今ここに在りて、
昼も夜も、我らを仇敵から
護ってくれますように。
3 ヴァイシュヴァーナラよ、
我らに対する汝のこの真実(約束)が、
果たされますように。
我らの周りに、
満ち溢れるほどの豊かな富が
集まりますように。
我らのこの祈りを、
ヴァルナ、ミトラ、アディティ、
シンドゥ(インダス川)、
大地と天空が、
叶えてくれますように。
解説
今回の第98曲は、全3節という非常にコンパクトで引き締まったアグニ讃歌です。
ここでアグニは、特に「ヴァイシュヴァーナラ(Vaiśvānara=全人類の友、普遍的な火)」という極めてスケールの大きな名で呼ばれています。地上で生まれた火でありながら、全宇宙を見下ろし、天空の太陽神「スーリヤ」と光の美しさを競い合う(rivalry with Sūrya)という、壮大で格好良いプロットが描かれています。
* 1節:アグニが地上の祭壇というミクロな場所で誕生しながら、瞬時に全宇宙を統べる「至高の王(King supreme)」へとスケールアップする劇的な展開が描かれます。「ここ(地上)に生まれて万物を見つめる」という描写は、人間の手によって熾された火が、宇宙の観察者となる逆説的な美しさを持っています。さらに、その光輝が天空の太陽神スーリヤと「ライバル関係(rivalry)」にあるとされる描写は、地上の火が天上の光と同等の神聖なエネルギーであることを示す、非常に大胆で格好良いプロットです。
* 2–3節:アグニの「遍在性」がマクロからミクロへと染み渡るように描かれます。彼は天と地に満ちているだけでなく、地上に生えるあらゆる植物(大自然の生命力)の奥深くにまで浸透しています(all plants that grow on ground hath he pervaded)。この全宇宙に遍在するエネルギーが、個々の礼拝者を「昼も夜も(day and night)」絶え間なく守護するという絶対的な安心感へと繋がっていきます。最後は、リグ・ヴェーダを代表する宇宙の主要な神々の連名による大団円の祝福(3節)で、格調高く締めくくられます。
1節の、祭壇でパッと生まれたばかりの火が、空を見上げて「私はあの太陽と輝きを競い合うライバルだ!」と言っているようなスケールの大きさは、アグニ神の最も壮大な一側面である「ヴァイシュヴァーナラ(Vaiśvānara=すべての人のものなる火、普遍的な火)」の本質を凝縮しています。




