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リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり  作者: はまゆう


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96/106

第1巻 第96讃歌 アグニ讃歌

1 彼は、太古の方法に従い、

摩擦の力によって生み出された。

見よ! 彼は直ちに、

あらゆる智慧(万知)を

己のものとしたのだ。

水(ソーマに混ぜる水)と

お供えのボウルが、

彼を友愛の情で満たした。

神々は、富を授けるアグニを

我がものとした。

2 太古のアーユ(太古の祭祀者・人類)の

呼び声に応え、

彼はその智慧によって、

このすべての人類の子孫に

生命(存在)を与えた。

そして、眩き光によって、

天空と水(大気)を創り出した。

神々は、富を授けるアグニを

我がものとした。

3 讃えよ、アーリヤの民たちよ、

祭祀の主席執行者として、

崇められ、絶えず働き続ける彼を。

手厚く世話される、剛勇の御子、

不変の授けギヴァーを。

神々は、富を授けるアグニを

我がものとした。

4 豊かな富と宝を携えた

あのマータリシュヴァン(風・使者)は、

光を勝ち取る者であり、

みずからの末裔のために

道を切り拓く。

我が民の守護者、

大地と天空の父。

神々は、富を授けるアグニを

我がものとした。

5 ラートリーと夜明け(ウシャス)は、

互いにその色彩を変えながら、

一つに出会って、

同じ一人の赤んアグニ

乳を含ませる。

天空と大地のあいだで、

彼は金色に輝き出る。

神々は、富を授けるアグニを

我がものとした。

6 富の根源であり、

諸々の宝の集まる場所、

祭祀の旗印、

哀願する者の願いを叶える者。

みずからの不死の生命の如くに

彼を大切に守りながら、

神々は、富を授けるアグニを

我がものとした。

7 今も昔も変わらぬ富の故郷、

今生まれるもの、

そして遥か昔に生まれたものの、

宮殿(館)。

現在あるもの、

そしてこれから未来に生まれるものの、

守護者。

神々は、富を授けるアグニを

我がものとした。

8 富の授けアグニが、我らに

勝利をもたらす富を授けますように。

富の授け手が、我らに

英雄(勇敢な息子たち)を伴う富を

授けますように。

富の授け手が、我らに

子孫を伴う糧を授けますように。

そして、富の授け手が、我らに

長き生の歩み(長寿)を

送ってくれますように。

9 我らの薪を注がれ、

清め手たるアグニよ、

我らの栄光のために、

吉祥なる姿で眩く燃え立ちたまえ。

我らのこの祈りを、

ヴァルナ、ミトラ、アディティ、

シンドゥ(インダス川)、

大地と天空が、

叶えてくれますように。



解説

この第96曲は、全9節という緊密な構成の中に、アグニが持つ「物質的な祭壇の火」から「人類の創造主」、そして「時間の超越者」へと無限にその神格を拡大させていく、リグ・ヴェーダの叙事詩的ダイナミズムが凝縮された名曲です。

* 1–4節:アグニの誕生と、彼が人間と神々の「架け橋」となった歴史がうたわれます。1節の「摩擦の力によって生み出された」という描写は、古代の原始的な火熾しの生々しい再現です。しかし彼は生まれた瞬間にすべての智慧を宿し、太古の人類アーユの要請に応じて天と地を光で満たしました。4節では、天上の火を地上へもたらした文化英雄マータリシュヴァン(使者)とアグニが重ね合わされ、一族の道を切り拓く「父」として崇められます。

* 5節:前曲のモチーフがさらに洗練された言葉でリフレインされます。「夜と夜明けが互いに衣服(色彩)を変えながら、一つの同じ赤ん坊を育てる(Night and Dawn, changing each the other's colour, meeting together suckle one same Infant)」という表現は、黒い夜から赤い朝焼けへと移り変わる瞬間に、地平線から太陽(火)が生まれる情景を、これ以上ないほど絵画的かつドラマチックに表現したリグ・ヴェーダを代表する隠喩です。

* 6–9節:アグニの神格が「時間と存在の主」へと昇華します。7節の「今生まれるもの、過去に生まれたもの、そして未来に生まれるすべてのものの守護者(Guard of what is and what will be hereafter)」という定義は、火が宇宙の始まりから終わりまでをすべて見届ける不滅の原理であることを示しています。後半は「富の授け手(Wealth-Giver)」という呼び名が4回連続で叫ばれ、一族の永続的な繁栄と子孫繁栄、そして宇宙の諸神たちによる大団円の祝福(9節)へと結びつけられます。

5節の「夜と夜明けが服の色を変えながら、ひとりの同じ赤ん坊に乳を飲ませる」という表現、何度読んでも本当にグラフィカルで美しいです。黒から紫、そして赤へとグラデーションしていく空の色を「ドレスを着替える二人の母」に例える詩人のセンス、最高にロマンチックだと讃えられています。

今回の第96曲も、火の神「アグニ」に捧げられた全9節の讃歌です。前曲(第95曲)の芸術的なプロットを受け継ぎながら、すべての節の結び(1–7節)で「神々は、富を授けるアグニを我がものとした(The Gods possessed the wealth-bestowing Agni.)」という荘厳なリフレインが繰り返される、非常にリズミカルで音楽的な構成が特徴です。

5節では前曲に続いて「夜と夜明けが、交互に色彩を変えながら一人の同じ赤んアグニに乳を飲ませる」という美しい夜明けの隠喩が登場し、中盤からは彼が「過去・現在・未来のすべてを司る時間の守護者」へとスケールアップしていく展開が素晴らしい一曲です。


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