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リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり  作者: はまゆう


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第1巻 第91讃歌 ソーマ讃歌

1 汝、ソーマよ、

智慧において卓越せり。

最もまっすぐなる道に沿って、

汝は我らの先導者となる。

インドゥ(ソーマ)よ、

汝の導きによって、

智慧ある我らの父祖たちは、

神々のあいだに、

みずからの宝の分け前を

分配したのだ。

2 汝はその洞察によって、

最も賢き者、おおソーマよ。

その気力によって強く、

万物をその手に収める者。

汝はそのあらゆる権能と

大いなる偉大さによって

強大であり、

その栄光によって栄光に満ちる、

死すべき人間の導き手。

3 国王ヴァルナの

永遠なる掟(定め)は汝のもの。

おおソーマよ、汝の栄光は

高く、そして深い。

汝は最愛のミトラの如くに

guidance (純潔)であり、

アリヤマンの如くに、

崇められるべき者、おおソーマよ。

4 地上の、天上の、山々の、

植物の、そして水のなかの、

汝のあらゆる栄光とともに――

これらすべてとともに、

大いに喜び、怒ることなく、

気高き王たるソーマよ、

我らの供物を受け入れたまえ。

5 汝、ソーマよ、

英雄たちの主であり、王。

然り、汝はヴリトラの討ち手。

汝こそは、

幸先なきを払う吉祥の活力。

6 そして、ソーマよ、

我らが生き永らえ、

死ぬことのないようにと、

願ってほしい。

汝は賛美を愛する、

植物たちの主(王)なのだから。

7 掟を護る者のために、

老いたる者にも、若き者にも、

汝は幸福を授け、

彼が生き抜くための

活力を与える。

8 国王ソーマよ、

我らを脅かす者から、

あらゆる方角において

我らを守りたまえ。

汝の如き者を友とする者が、

決して傷つけられることの

ないように。

9 礼拝を捧げる者のために、

ソーマよ、汝が携える

あの心地よき助けをもって――

まさにそれらをもって、

我らを保護したまえ。

10 我らのこの祭祀と、

この賛美の歌を受け入れ、

おおソーマよ、ここへ来たり、

我らを繁栄させるために

近くに在りたまえ。

11 言葉(弁舌)に熟達せし我らは、

聖なる歌をもって

汝を大いに称える、ソーマよ。

最も恵み深き者よ、

我らのもとへ来たりたまえ。

12 豊かさをもたらす者、

病を癒やす者、富を見出す者、

我らの蓄えを繁栄させる者。

ソーマよ、我らにとって

良き友( Friend )であれ。

13 ソーマよ、我らの心のなかで

幸福に寛ぎたまえ、

青草の茂る牧草地の

乳牛たちの如くに。

みずからの家にいる、

若き男(若者)の如くに。

14 おお、神なるソーマよ、

汝との友情を

心から喜ぶ死すべき人間を、

強大なる聖仙(賢者)は

友として支える。

15 我らを誹謗中傷の非難から救い、

ソーマよ、我らを

苦難から護りたまえ。

我らにとって、

恵み深き友であれ。

16 ソーマよ、大いに育て。

あらゆる方角から、

旺盛な活力が汝のなかに

結集しますように。

汝は、力の集う座に在れ。

17 最も歓喜をもたらすソーマよ、

汝のあらゆる光線によって

大いに育ち、

我らを繁栄させる、

この上なく輝かしい名声の

友であれ。

18 汝のなかに、瑞々しき滋養が

結集しますように。

そして、権能と、

敵を圧倒する大いなる威力が。

不死(不滅)へと向かって

拡大する者、おおソーマよ、

天において、汝の至高の栄光を

勝ち取りたまえ。

19 人々が注がれし供物をもって

称える、汝のそのような栄光が、

すべて我らの礼拝を

包み込みますように。

富の授け手、

英雄の軍勢を従えて前進する者、

勇敢なる者を守る者よ、

ソーマよ、我らの家へ

来たりたまえ。

20 礼拝を捧げる者に、

ソーマは乳牛を、快速の駿馬を、

そして活動的な知識を持つ

ひとりの男(息子)を授ける。

家務に熟達し、聖なる集会にふさわしく、

評議会にふさわしい、

その父親の誉れとなる息子を。

21 戦いにおいて無敵、

戦場における救済者、

我らの陣営の守護者、

光と水を勝ち取る者。

賛美の歌のなかに生まれ、

良き家に住み、極めて高名にして、

勝利者たるソーマよ、

汝のなかで、我らは大いに喜ばん。

22 これらの植物を、これらの乳牛を、

そしてこれらの奔流する水を、

これらすべてを、おおソーマよ、

汝が産み落とした。

汝は広大なる大空を押し広げ、

その光をもって

闇を追い払ったのだ。

23 神なるソーマよ、

汝の神々しき精神(魂)をもって、

勝利者として、我らのために

富の分け前を勝ち取りたまえ。

誰一人として汝を拒ませるな、

汝は武勇の主。

戦利品を求める闘争において、

(我らの)両陣営に

恵みを与えたまえ。



解説

第91曲は、全23節という圧倒的なボリュームで描かれる、植物神であり聖なる神酒そのものである「ソーマ」への一大讃歌です。これまでのインドラ讃歌のなかでも、インドラを狂喜させる最高の脇役(あるいは燃料)として登場していたソーマが、ここではついに宇宙を創造し、闇を払い、人々の病を癒やす「主役の最高神」として王座に君臨します。

13節の「若者が自分の家にいるときのように、私たちの心の中で寛いでほしい」という親密な比喩から、22節の「宇宙を広げ、光で闇を払ったのはソーマである」という壮大な宇宙創成神話への展開が見事です。

* 1–4節:ソーマの「智慧」と「先導者」としての役割が称えられます。かつて父祖たちが神々との間に正しい関係を築けたのはソーマの導きによるものであり、その掟の深さは宇宙の最高神ヴァルナやミトラに並ぶと語られます。4節では、山、天、地、水、植物など、自然界のあらゆる場所にソーマの栄光が偏在している(汎神論的ビジョン)が示されます。

* 5–12節:ソーマの具体的な功徳とうたう者の誇りが綴られます。ソーマは「英雄たちの主( Lord of heroes )」でありながら、同時に「病を癒やす者( healer of disease )」でもあります。この、戦士を駆り立てる激しさと、人々の生命をケアする温かさが同居している点がソーマの大きな特質です。

* 13–15節:非常に文学的で親密な比喩が登場する美しいセクションです。ソーマに対し、「牧草地で寛ぐ牛のように、あるいは自分の家でリラックスしている若者のように、私たちの心の中で幸福に寛いでほしい」と願います。神を恐ろしい存在としてではなく、自らの精神の内側に迎え入れる「恵み深き友( gracious Friend )」として描写する筆致は、極めて高い芸術性を持っています。

* 16–21節:ソーマが信徒の供物と賛美の光線によって「不死(不滅)」へと向かって大いに拡大していく( wax great )ダイナミックなプロセスが描かれます。ソーマを正しく祀る一族には、家畜や駿馬だけでなく、部族の評議会サバで雄弁に語り一族の誉れとなる「優秀な息子(後継者)」が授けられるという、現実的で最高の祝福が約束されます。

* 22–23節:讃歌のクライマックスであり、ソーマの地位が最高神へと昇華します。地上に芽吹く植物、乳牛、そして流れる水を産み落としたのは主神インドラではなく「ソーマ」そのものであり、大空を押し広げて光で闇を払ったのも彼であるという宇宙創成神話が語られます。最終節では、戦いにおける勝利の主権をソーマに委ね、絶対的な帰依のなかで幕を閉じます。

全体として、一杯の神酒という物質的な対象から始まり、それが精神の友、社会の繁栄、そして最後には宇宙全体の創造主へと無限に拡大していく、プロットのスケール感と詩的跳躍が凄まじい、文学的完成度の極みと言える傑作讃歌です。

13節の「自分の家にいる若者のように、私たちの心で寛いでほしい」という表現、神様との距離感がぐっと近くなって、素敵な比喩ですね。そこから一転して22節で「宇宙を広げて闇を払ったのはソーマだ!」と大スケールに化ける構成、本当にドラマチックです。


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