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リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり  作者: はまゆう


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第1巻 第92讃歌 夜明けの女神(ウシャス)讃歌

1 これら夜明けのウシャスは、

その旗を掲げた。

中天の東の半球において、

彼女たちはその輝く光を

広く行き渡らせる。

戦いのために武具を整える

英雄たちの如くに、

鮮やかな赤き色彩を帯びて、

母なる牛(赤き雲)らが

前へと進み来る。

2 紫色の光線が、

速やかに、勢いよく立ち上った。

彼女たちは、くびき

繋ぎやすい赤き牛(朝焼けの雲)を

戦車に繋いだ。

夜明けの光は、以前と同じように、

世界に明確な覚醒(知覚)をもたらした

赤き色彩をまとい、

彼女たちはその眩い輝きの極みに

達したのだ。

3 彼女たちは、

みずからの仕事に勤しむ

佳き女たちの如くに、

歌をうたう。

遥か彼方から、

共有の道に沿ってこちらへ向かい、

気前の良い信徒に

瑞々しき歓喜をもたらし、

然り、神酒ソーマを注ぐ

礼拝者のもとへ、

あらゆる恵みを運んでくる。

4 彼女は、踊りダンサーの如くに、

刺繍を施された衣装を身にまとう。

牛がその乳房を差し出すように、

彼女はその胸をはだける。

生きとし生けるすべての世界のために

光を創り出しながら、

夜明け(ウシャス)は闇を切り拓いた――

牛たちが、その檻の扉を

押し開くように。

5 我らは、彼女の眩い輝きを

目撃した。

それは広がり、

あの暗黒の怪物(闇)を

追い払う。

祭祀の場に立てられた

聖なるユーパを彩る

色彩の如くに、

天空の娘は、その驚異的な

まばゆい栄光に達したのだ。

6 我らは、この暗闇の境界を

超え去った。

再び割れ出た夜明けは、

明確な覚醒(知覚)をもたらす。

彼女は、へつらう者の如くに、

栄光のために光のなかで微笑み、

美しいかんばせをして、

我らを楽しませるために

目覚めた。

7 ゴータマの徒は、

天空の輝かしい娘を、

心地よき歌声の魅力を

先導する者を称えた。

夜明け(ウシャス)よ、汝は我らに、

子孫や男たちを伴う剛力を授け、

牛や馬の富によって

我らの名を轟かせる。

8 驚異的な栄光のなかに

輝き出る者よ、

みずからの力によって

前へと促される、吉祥なる貴婦人よ。

夜明けよ、私がその富を、

勇敢な息子たちや、

多くの従者たちを伴う、

馬の富で広く名高いあの富を、

勝ち取ることができますように。

9 すべての世界にその視線を注ぎ、

女神は輝き、

その輝かしい眼をもって、

西の果てまで広く光を広げる。

あらゆる生き物を

目覚めさせて動かし、

彼女は、祈りを捧げる一人ひとりの

声を理解している。

10 遥かなる太古の日々からありながら、

幾度も幾度も、

新しく生まれ変わる者。

常に変わらぬ同じ衣装をまとって、

みずからの美を飾り立てる。

この女神は、死すべき人間の

生命(寿命)を磨り減らしてゆく――

熟練の狩人が、鳥たちを

切り刻んでゆくかのように。

11 彼女は、天の境界を

暴き出しながら姿を現した。

遥か彼方の距離へと、

彼女は己の姉(「夜」の女神)を

追い立てる。

人間の寿命を

日毎に減少させながら、

この貴婦人は、みずからの恋人(太陽)の

あらゆる光輝をまとって輝く。

12 輝かしく、祝福された彼女は、

大河がその水を転がし流すように、

牛の群れの如き光線を

広げながら輝き出る。

神聖なる戒律(掟)を決して

踏み外すことなく、

彼女は、太陽の光線とともに

その姿を現す。

13 溢れんばかりの富に恵まれた

夜明け(ウシャス)よ、

我らに、あの驚異的な贈り物を

授けたまえ。

それによって我らが、子供たちや、

子孫の息子たちを

養うことができるように。

14 甘美なる響きの

輝かしい推進者よ、

馬と牛の富とともに、

今日こんにち、我らの上に輝きたまえ、

おお、吉祥なる夜明けよ。

15 聖なる儀礼によって

豊かに満たされた夜明けよ、

汝の戦車に、

あの紫色の駿馬を繋ぎとめよ。

そうして、我らのもとへ、

すべての至福を運んでおくれ。

16 驚異的な行いを成す

アシュヴィン双神よ、

汝らは心を一つにして、

牛と金(黄金)の富に満ちた

我らの家へと、

その戦車を向けたまえ。

17 天から賛美の歌を

もたらした者たちよ、

人間に光を与えるあの光よ。

アシュヴィン双神よ、

汝らは、ここ我らのもとへ、

活力を運んできておくれ。

18 夜明けとともに目覚める

あの方々を、

神酒ソーマを飲むために

ここへ連れてきておくれ――

健康の授け手、

驚異を成す者(諸神)を、

黄金の道に乗せて。



解説

ここからは、リグ・ヴェーダのなかでも屈指の美しさを誇る「夜明けの女神ウシャス」への讃歌が始まります!全18節にわたるこの大作は、朝の光が世界を徐々に満たしていく情景が、ため息が出るほど官能的で美しい比喩で描かれているよ。

特に4節の「ダンサーのように刺繍の衣装をまとい、胸をはだけていく」というビジュアル描写や、10節の「何度も新しく生まれ変わりながら、人間の寿命を削り取っていく」という、美しさと残酷さが同居した時の描写は、古今東西、強烈なインスピレーションを与えました。

* 1–6節:暗闇の東の地平線から、朝焼けの赤い雲(赤き牛)を従えてウシャスが登場するドラマチックな幕開けです。4節の「踊りダンサーが刺繍の衣装をまとい、牛が乳を差し出すように胸をはだけて闇を暴く」という官能的な比喩は、世界に光と生命を吹き込む女神の圧倒的なエロスと生命力を象徴しています。5節の聖なるユーパの比喩など、祭壇の色彩と大自然の色彩が重なり合うプロットの美しさが光ります。

* 7–9節:作者であるゴータマ一族の讃美を受け、ウシャスが西の果てまで世界中を見渡す広大な視界( bright eye )が描かれます。彼女はただ光をもたらすだけでなく、眠っていたすべての生物に行動を促し、地上の巡礼者たちの祈りの声を一言も聞き漏らさずに理解する、全知の保護者として描かれます。

* 10–12節:この讃歌の最も深く、文学的に戦慄を覚えるハイライトです。ウシャスは「太古から存在しながら、毎朝新しく生まれ変わる( Ancient of days, again again born newly )」という永遠の若さを持つ一方、彼女が毎朝同じ美しい衣装をまとって現れるたびに、「人間の寿命は確実に削り取られていく」という冷酷な時間の真実がうたわれます。その残酷さを「熟練の狩人が鳥を切り刻むが如く( like a skilled hunter cutting birds in pieces )」と表現する筆致は、美の絶頂の中に死を内包する、極めて高度な詩的・小説的レトリックです。

* 13–18節:ウシャスへの具体的な祈りから、夜明けとともに活動を開始する「アシュヴィン双神」への呼びかけへと移行します。黄金の道に乗り、世界に健康と光をもたらす神々をソーマの宴へと招待し、朝の祭祀の爽やかな完成とともに、清々しい余韻の中で締めくくられます。

4節の「ダンサーのように刺繍の衣装を着て胸をはだける」という、圧倒的に華やかでセクシーな朝の表現から、10節の「毎朝新しく生まれ変わりながら、狩人のように人間の寿命を削り取っていく」という冷徹な時間の描き方への対比が、本当に美しいです。美と残酷さが表裏一体になった、ウシャス讃歌の最高傑作です。



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