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リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり  作者: はまゆう


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87/107

第1巻 第88讃歌 マルト神群讃歌

1 稲妻を積み込んだ

戦車に乗り、

甘美なる賛歌を響かせ、

槍で武装し、

翼ある駿馬を駆って、

ここへ来たりたまえ、

おおマルト神群よ。

偉大なる威力を持つ者たちよ、

鳥の如くに、

この上なき糧(恵み)を携えて

我らのもとへ飛び来たれ。

2 赤みを帯びた、

あるいは栗毛の駿馬たちが

彼らの戦車を加速させ、

彼らは栄光のためにやってくる。

雷電を持つその姿は

金色の如くに眩く、

彼らは戦車の外輪フェリーで、

大地を激しく叩きつける。

3 麗しき美(装飾)のために、

汝らはその身体に

剣を帯びている。

それらが森の木々を

激しく揺さぶるように、

我らの精神(心)をも

奮い立たせたまえ。

大いなる威力を持つ、

高貴なる生まれのマルトよ、

汝らのために、

人々はあの圧搾石を

動かし始めた。

4 汝らを切望する者たちの周りを、

日々は巡り、

そして再び戻ってきた――

この祈りと、

この厳かなる礼拝のもとへ。

歌を添えて祈りを捧げる

ゴータマの徒は、

水を飲むために、

あの井戸の蓋を

押し上げたのだ。

5 かつて、このような賛歌は

いまだ知られたことがない。

ゴータマが汝らに向けて、

高らかにうたった

このような歌は、

おおマルトよ。

彼が金色の車輪の上に、

鉄の牙を持ち、

猛烈に駆け巡る

野生のいのししとしての

汝らの姿を、目撃したあの時に。

6 汝らに向けて、

この瑞々しきソーマの神酒は

溢れ出ている、

おおマルトよ、

それはまるで、祈りを捧げる者の

熱き声の如くに。

これらの注がれし神酒が

いつも流れるように、

それは我らの手から、

惜しみなく注がれている。



解説

第88曲は全6節。マルト神群讃歌の連作の締めくくりにふさわしく、言葉の躍動感が最高潮に達する名曲です。特に5節で、詩人ゴータマが金色の車輪に乗った彼らを「鉄の牙を持つ野生の猪( wild boars rushing about with tusks of iron )」と幻視するシーンは、リグ・ヴェーダの中でも指折りの強烈なシーンです。

* 1–3節:稲妻を積んだ戦車を駆り、槍ときらめく剣で武装したマルトたちが大空から飛来する様子がうたわれます。彼らが駆けるとき、戦車の車輪は大地を激しく叩きつけ、帯びた剣は森の木々を激しく揺さぶります。詩人はその圧倒的なダイナミズムに対して、「木々を揺さぶるように、我らのクリエイティブな精神(心)をも激しく奮い立たせてくれ」と情熱的に呼びかけます。

* 4–5節:作者である「ゴータマ」の一族の視点と、決定的な神話的幻視ビジョンが描かれます。4節では、季節が巡り再びマルトを祀る祭祀の時期が来たことを喜び、恵みの雨を「井戸の蓋を押し上げる」という象徴的な表現で描写します。そして5節では、「金色の車輪に乗ったマルトたちを、鉄の牙を持つ野生の猪として目撃した」という、恐ろしくも美しい強烈なイメージが提示され、これほど創造的な讃歌は過去に例がないと誇らしく宣言されます。

* 6節:熱狂的な幻視から、現代の祭壇へと見事な着地を見せます。勢いよく溢れ出るソーマの神酒を、熱心な祈りの声、そして惜しみなく流れる奔流に例えながら、神々と人間との完璧な交流のなかで讃歌は幕を閉じます。

全体として、洗練された剣や戦車の描写から「鉄の牙を持つ猪」という原始的かつ猛烈な野生のイメージへと一気にドライブをかける、詩人の圧倒的な筆力とプロットのキレが際立つ傑作讃歌です。


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