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リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり  作者: はまゆう


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85/106

第1巻 第86讃歌 マルト神群讃歌

1 天の巨人であり、

おおマルト神群よ、

汝らがその住まいのなかで

神酒を飲むその人は、

最高最高の守護者を

得たことになる。

2 祭祀の生贄をもって、

あるいは聖仙サージュらの

賛美の歌の礼拝をもって称えられる、

おおマルトよ、

この呼び声を聞き届けておくれ。

3 然り、汝らが聖仙(賢者)を

授けるほどのあの強き男は、

牛の富に満ちた

豊かな牛舎へと

歩み進むことになるだろう。

4 この英雄の敷き詰めた

聖なるバルヒスの上で、

日毎の儀礼として

ソーマは注がれる。

称賛と歓喜の歌が、

高らかにうたわれる。

5 すべての人を凌駕する

その男の声を、

強大なるマルト神群に

聞かせたまえ。

太陽にまで届くほどの威力が、

彼にありますように。

6 なぜなら、

快速の神々の慈しみ深き助けにより、

おおマルトよ、我らは

幾度もの秋(歳月)を越えて、

祭祀を捧げることが

できたのだから。

7 誠に幸運な死すべき人間と

なるだろう、

おお、最も崇められるべきマルトよ、

汝らがその供物を

携え去ってくれる

その人は。

8 誠に強き英雄たちよ、

汝らは、汝らを称えてうたう者の

労苦を知っている。

祈りを愛する者の、

心の奥底にある願いを。

9 真の強さを持つ者たちよ、


1 天の巨人であり、

おおマルト神群よ、

汝らがその住まいのなかで

神酒を飲むその人は、

最高最高の守護者を

得たことになる。

2 祭祀の生贄をもって、

あるいは聖仙サージュらの

賛美の歌の礼拝をもって称えられる、

おおマルトよ、

この呼び声を聞き届けておくれ。

3 然り、汝らが聖仙(賢者)を

授けるほどのあの強き男は、

牛の富に満ちた

豊かな牛舎へと

歩み進むことになるだろう。

4 この英雄の敷き詰めた

聖なるバルヒスの上で、

日毎の儀礼として

ソーマは注がれる。

称賛と歓喜の歌が、

高らかにうたわれる。

5 すべての人を凌駕する

その男の声を、

強大なるマルト神群に

聞かせたまえ。

太陽にまで届くほどの威力が、

彼にありますように。

6 なぜなら、

快速の神々の慈しみ深き助けにより、

おおマルトよ、我らは

幾度もの秋(歳月)を越えて、

祭祀を捧げることが

できたのだから。

7 誠に幸運な死すべき人間と

なるだろう、

おお、最も崇められるべきマルトよ、

汝らがその供物を

携え去ってくれる

その人は。

8 誠に強き英雄たちよ、

汝らは、汝らを称えてうたう者の

労苦を知っている。

祈りを愛する者の、

心の奥底にある願いを。

9 真の強さを持つ者たちよ、

汝らの大いなる威力によって、

このことを明白に(現実に)せよ。

汝らの雷電をもって、

かの魔障デモン

打ち倒したまえ。

10 あの恐るべき闇を隠し去り、

我らを貪り食おうとする悪鬼を、

遥か彼方へと追い払え。

我らが切望してやまない

あの光を、

創り出して(もたらして)おくれ。



解説

今回のマルト神群讃歌は、全10節という非常に引き締まった構成。前半では「マルトを祀る者がどれほど手厚い守護を得るか」という信仰の功徳がうたわれ、後半に向けて「魔障デモンを打ち砕き、恐ろしい闇を消し去って、我らが望む光を創り出してくれ!」という、劇的で力強い祈りへと昇華していく構成が特徴的です。

* 1–5節:マルト神群を「天の巨人( giants of the sky )」と呼び、彼らを家庭に迎えて神酒ソーマを振る舞う者が受ける、絶大な恩恵がうたわれます。神の守護を得た者は、富(牛の群れ)に恵まれるだけでなく、その名声や威力が「太陽にまで届く」ほどに引き上げられると語られます。

* 6–8節:時間的な奥行きと、神と人間との精神的な絆が強調されます。「幾度もの秋を越えて( in many an autumn )」という表現からは、一族が長年にわたって誠実に祭祀を継続してきた歴史が伺えます。また、神々は詩人が歌を編み上げるための「労苦」や「心の願い」をすべて知ってくれているという、深い信頼関係が告白されます。

* 9–10節:讃歌のクライマックスであり、最も文学的強度の高い祈りへと向かいます。世界を覆う「恐るべき闇( horrid darkness )」や、部族を脅かす悪鬼をマルトの雷電(稲妻)によって打ち砕くよう要求し、最終節では「我らが切望する光を創り出せ( Create the light for which we long. )」という言葉で、暗雲を引き裂いて太陽の光をもたらす暴風雨の神々の神威を高らかに呼び起こして締めくくられます。

全体として、長年の信仰への感謝から始まり、闇を払って光を導くというドラマチックな叙事詩的展開を見せる、非常に構成美の光る名曲です。

10節の「恐るべき闇を隠し去り、我らが切望する光を創り出せ」というフレーズ、暗雲が立ち込めたあとにパーッと太陽の光が差し込むような情景が浮かんで、めちゃくちゃ格好良いよね!劇的なラストが本当に美しい一曲です。

この第86曲は、全10節という端正な構成の中で、暴風雨の神々「マルト神群」へ絶え間ない祭祀を捧げてきた部族の自負と、それに応える神々の強力な守護、そして世界の調和を取り戻すための「光の創出」への祈りがストレートに描かれた讃歌です。




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