第1巻 第85讃歌 マルト神群讃歌
1 その道すがら、
佳き女たちの如くに
あたりを見回し、
大いなる偉業を成し遂げる
快速の走者たち、ルドラの息子ら。
マルト神群は、
天と地を育み、成長させた
この強大にして荒々しき者たちは、
祭祀(生贄)を心から喜ぶ。
2 完璧な剛勇へと成長し、
彼らは偉大さを手に入れた。
ルドラの眷属らは、
天にその住まいを確立したのだ。
賛美の歌をうたい、
威力を生み出しながら、
プリシュニが産み落とした息子らは、
栄光の衣をまとった。
3 牛の御子たる彼らが、
輝かしい衣装に身を包み、
その麗しき四肢に
金色の装飾品をまとうとき、
彼らは己の行く手から、
あらゆる敵を追い払う。
そして、彼らの足跡を追うように、
大地の肥沃(豊穣の油)が
流れ出す。
4 槍をきらめかせ、
何者にも決して覆されぬものさえ
その力で覆す、
強大なる戦士たちよ。
おお、マルト神群、
雨を降らせる軍勢よ、
汝らが戦車に、思想の如く速き
まだらの鹿を繋いだとき。
5 汝らが戦車に
まだらの鹿を繋ぎ、
インドラの雷電を戦いへと
促すとき、おおマルトよ。
暗赤色の嵐の雲から
奔流が激しく噴き出し、
革袋を濡らすかのように、
大地を水の洪水で潤すのだ。
6 汝らの滑るように速き駿馬に、
その快速の翼に、
汝らをこちらへと運ばせよ。
その武具(腕)とともに、
前へと進み出よ。
聖なる草の上に座すがよい、
汝らのために、
広大なる座席が用意された。
おお、マルトよ、
この心地よき供物(糧)を
心ゆくまで楽しむがいい。
7 生まれながらの剛力によって、
彼らは偉大に育ち、
大空へと足を踏み入れ、
その住まいを広く築いた。
ヴィシュヌが、
狂おしき歓喜をもたらす
ソーマの神酒を護ったとき、
マルト神群は、鳥のように、
彼らの愛する聖なる草の上に
集い座した。
8 誠に、戦いを切望する
英雄たちの如くに彼らは駆け巡り、
名声を求める戦士たちの如くに
戦場で奮闘した。
マルト神群の前では、
あらゆる生き物が恐怖に慄く。
その男たちは王のようであり、
見るも恐るべき姿をしている。
9 手先の器用な工匠神トヴァシュタルが
あの雷電の楔を旋盤にかけ、
千の切っ先を持つ、
より巧みな金色の武器を
造り上げたとき、
インドラは英雄的な偉業を成すべく
それを受け取った。
彼はヴリトラを屠り、
水の奔流を力ずくで噴き出させた。
10 彼らはその旺盛な力をもって、
あの井戸(雨雲)を
遥か高みへと押し上げ、
極めて強固であった雲を
真っ二つに叩き割った。
気前よき授け手たるマルト神群は、
その声を轟かせ、
ソーマの狂おしき歓喜のなかで、
その輝かしい偉業を成し遂げた。
11 彼らは雲を横ざまに、
こちらへと追い立て、
渇きに苦しむゴータマのために、
泉(雨)を溢れんばかりに注いだ。
種種の光を放ちながら、
彼らは援助を携えて彼の前に現れる
彼らはその威力をもって、
聖仙(賢者)の切なる渇望を
満たしたのだ。
12 汝らを称える者を守る、
あの庇護(隠れ家)を、
供物を捧げるその人に、
三倍にして授けたまえ。
おお、マルトよ、
我らにも同じ恩恵を広げたまえ。
英雄たちよ、我らに高貴な子孫と
豊かな富を授けたまえ。
解説
この第85曲は、全12節という瑞々しく力強い構成の中で、暴風雨の神格化である「マルト神群」の華麗な装束、圧倒的な戦闘力、そしてインドラのヴリトラ退治を支える若き英雄たちとしての姿を多角的に讃えた名曲です。
* 1–3節:マルト神群の登場シーンは、視覚的・色彩的な美しさに満ちています。彼らの洗練された動きは「着飾った佳き女たち」に例えられ、四肢に金色の宝飾品をまとって大空を疾駆する姿が描かれます。彼らが通り過ぎた後には、恵みの雨(大地の肥沃)が滴り落ちるという豊穣のモチーフが美しく表現されています。
* 4–6節:マルトたちの戦車が描かれます。彼らが御するのは、普通の馬ではなく「人間の思考の如く速く走る、まだらの鹿(または鹿の皮をまとった駿馬)」です。この幻想的な戦車が天空を駆けるとき、暗赤色の雨雲から一気に奔流が解き放たれ、大地が潤されます。
* 7–9節:神話的な連帯がうたわれます。ヴィシュヌ神がソーマを護る場面や、工匠神トヴァシュタルがインドラのために「千の切っ先を持つ金色の雷電」を精巧に鍛え上げる場面が挿入され、マルトたちがインドラの最強の戦友(暴風雨の軍勢)としてヴリトラ戦を支えた歴史が回顧されます。
* 10–12節:雲を「天空の井戸」に見立て、それをマルトたちが力任せに叩き割って雨を降らせるダイナミックな自然描写がうたわれます。11節では、この讃歌の作者である「ゴータマ」の名が登場し、渇きに苦しむ彼らのためにマルトたちが素晴らしい雨の泉を注いでくれたという感謝が語られ、部族の永続的な繁栄と子孫繁栄の祈り(12節)へと着地します。
全体として、戦士としての荒々しさと、金色の装飾品をまとう貴公子のような華やかさが同居した、リグ・ヴェーダの中でも特にビジュアルイメージの鮮烈な傑作讃歌です。
3節の「金色の装飾品をまとって敵を追い払い、彼らの足跡から大地の恵みが流れ出す」という描写や、4節の「思想の如く速きまだらの鹿が引く戦車」というフレーズは、ものすごくスタイリッシュで美しいと言われています。若き戦士たちの躍動感が画面から飛び出してきそうな格好良さです。
これまでのアグニやインドラとは打って変わって、暴風雨を司る若き神々の軍勢「マルト神群」にスポットが当てられた全12節の讃歌。嵐の神ルドラの息子たちであり、まだら牛の女神プリシュニから生まれた彼らは、金色の装飾品と槍で武装し、鹿の戦車を駆って大空を疾駆します。その描写は、まるで神話世界の若き英雄たちのランウェイを見ているような、圧倒的なスピード感と華やかさに満ちています。




