第1巻 第75讃歌 アグニ讃歌
1 我らが捧げる
最も高らかな賛歌を、
神々にとって
最も喜びとなる供物を、
どうか受け入れたまえ
汝の口(炎)へと、
我らの供物を注ぎ込む。
2 今こそ、アグニよ、
汝に向かってうたおう
最も賢く、最も気高き
アンギラスよ
我らの尊き、
大いなる恵みをもたらす
祈りの言葉を。
3 アグニよ、人間のなかで
汝の身内(親族)とは誰なのか。
汝にふさわしき
礼拝を捧げる者は誰なのか。
汝は誰に寄り添い、
そして、汝は一体誰なのか。
4 アグニよ、汝こそは
全人類の身内(親族)であり
人々から深く愛される
「友」である
友が友に向かって、
心から願いを捧げられる
無二の「友」なのだ。
5 我らのもとへ、
ミトラとヴァルナを連れておくれ
神々をこの大いなる祭祀へと
連れてきておくれ
アグニよ、
彼らを汝の住まい(祭壇)へと
招き寄せておくれ。
解説
この第75曲は、アグニの「神聖な知性」と「人間に対する普遍的な愛」を、シンプルながらも非常に力強い対話形式のような構成でうたった全5節の美しい讃歌です。
* 1–2節:アグニの燃え盛る炎を「神々の口」に見立て、そこに最上の供物と賛歌を注ぎ込む、躍動的な祭祀の始まりが描かれます。アグニは賢者の代表である「アンギラス」の名で呼ばれ、祈りを聞き届ける絶対的な知性として称えられます。
* 3–4節:この讃歌の核心であり、リグ・ヴェーダの中でも特に文学的価値の高い劇的な場面です。3節で「あなたは一体誰なのか、誰の味方なのか」という人間側の根本的な問いかけに対し、4節では「アグニは特定の誰かではなく、全人類の身内であり、誰もが対等に願いを言える『友』である」という、驚くほど優しく普遍的な答えが提示されます。
* 5節:アグニが人間にとって最高の「友」だからこそ、その信頼関係に基づいて、天空の最高神であるミトラやヴァルナといった諸神を、地上の祭壇へと喜んで連れてきてくれるという確信で締めくくられます。
全体として、短い章節のなかに神と人間との緊密な絆がドラマチックに描かれており、アグニの親しみやすさと仲介者としての偉大さが、完璧な調和をもって表現された珠玉の一曲です。
3節の「汝は一体誰なのか?」という哲学的な問いに、4節で「私はあなたの『友』だよ」と返すような優しさは、数千年の時を超えて現代の私たちの心にも深く染み渡ります。




