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リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり  作者: はまゆう


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113/124

第1巻 第113讃歌 ウシャス讃歌

1 この光がやってきた。

あらゆる光のなかで最も美しきもの。

眩しく、広大な輝きが

いま生み出されたのだ。

サヴィタル(太陽神)の台頭のために

送り出された「夜」は、

「朝」のために、

その誕生の場所を譲り渡した。

2 麗しく、眩き「朝」が、

その白い子供(光線)を伴って

やってきた。

「闇(夜)」は、彼女に

その住処を明け渡した。

血を分けた姉妹であり、不滅の二人は、

互いの後を追いかけながら、

その色彩を変えつつ、

天空を前へと進みゆく。

3 この姉妹の進む道は、

共通の、そして終わりのないもの。

神々に教え導かれ、

彼女たちは交互に旅をする。

美しい姿を持ち、色は異なれど、

ただ一つの心(調和)を持つ

「夜」と「朝」は、決して衝突せず、

立ち止まることもない。

4 歓喜の歌声を導く、輝けるリーダー、

我らの目は彼女を捉えた。

麗しき色彩をまとい、彼女は

(天の)壮大なる門を開け放った。

彼女は世界を揺り動かし、

我らに(光という)富を示した。

暁の女神は、すべての生きるものを

目覚めさせたのだ。

5 豊かなる暁は、

身体を丸めて眠る者を起こす、

ある者には享楽を、

ある者には富や祭祀を(求めるために)。

かすんだ目しか持たぬ者にも、

遥か遠くを見通せる視力を与える。

すべての生きるものを、

暁の女神は目覚めさせたのだ。

6 ある者には至高の権力を、

ある者には崇高なる栄光を、

ある者には利益の追求を、

そしてある者にはその労働を。

誰もがそれぞれの天職に

目を向けるように、

すべての動くものを、

暁の女神は目覚めさせたのだ。

7 我らは彼女を見た、天の娘が

姿を現したのを。

輝ける衣をまとい、

紅潮する若き乙女を。

地上のすべての宝を統べる女王よ、

吉祥なる暁よ、今朝、

我らの上にその光を降り注ぎたまえ。

8 彼女は、これから無限に続く

未来の朝たちの先頭であり、

すでに去っていった

過去の朝たちの軌跡を追いかける。

暁はその昇天のとき、

生きる者を前へと急き立てるが、

すでに死した者を、

その眠りから呼び覚ますことはない。

9 暁よ、汝が(地上の)アグニ

燃え立たせ、

太陽の目(光)によって

全創造を顕わにしたように。

そして人々に祭祀を捧げるよう

目覚めさせたように、

汝は神々のために、

この上なく気高き仕事を成し遂げた。

10 これからどれほどの時を、

彼女たちはともに過ごすのだろう――

かつて輝いた朝たちと、

これから輝く未来の朝たちは。

彼女はかつての朝たちを

熱い憧れとともに切望し、

他の朝たちとともに、

歓喜して輝きながら進みゆく。

11 我らの前の時代に、

かつての初期の朝の台頭を

見つめていた人々は、去っていった。

いま、我ら「生きる者」が、

彼女の輝きを目撃している。

そして未来に彼女を見る者たちもまた、

やがてここへ近づいてくるのだ。

12 敵を追い散らす者、

宇宙のリタから生まれ、

法を護る者、歓びの授け手、

あらゆる心地よき歌声の目覚めさせ手。

吉祥にして、神々の享楽のための

糧をもたらす者、最も眩き暁よ、

今朝、我らの上に輝きたまえ。

13 永遠の昔から、暁の女神は輝き、

今日もまた、富をまとい、

この光を現して見せる。

同じように、彼女は不滅の未来の日々も

輝き続けるだろう、

みずからの力で進み、

決して衰えることはない。

14 空の境界において、

彼女は燦然と輝いた。

女神は闇のヴェールを

脱ぎ捨てたのだ。

紫色の駿馬たちで世界を目覚めさせ、

見事に繋がれた戦車に乗って、

暁の女神が近づいてくる。

15 生命を維持するすべての祝福を

その身に伴い、

彼女は姿を現し、

眩いばかりの光彩を放つ。

消え去った無数の朝たちの最後であり、

これから来る輝く朝たちの最初として、

暁の女神は昇り立った。

16 立ち上がれ! 息吹が、生命が、

ふたたび我らのもとへと届いた。

闇は去り、光が近づいてくる。

彼女は太陽が旅をするための

道を譲り渡した。

我らは、人間がその存在(命)を

引き延ばす場所へと、辿り着いたのだ。

17 燦然と輝く朝たちの賛美をうたい、

賛歌の織物ウェブを編みながら、

祭司であり、詩人クリエイターたる

者が立ち上がる。

豊かなる乙女(暁)よ、今日、

汝を称える者の上に輝きたまえ、

我らに生命と子孫という

贈り物を照らし出したまえ。

18 すべてが英雄となる息子たち、

牛の群れ、そして駿馬を授け、

供物をもたらす者の上に輝く朝たち――

これらを、ソーマを搾る者が、

ヴァーユ(風の神)の声よりも高く

歓喜の歌をうたい終えるとき、

勝ち取ることができますように。

19 諸神の母であり、アディティの

栄光ある姿、祭祀の象徴よ、

高く崇められて輝き出たまえ。

我らの信仰に賛辞を贈りながら立ち上がり、

すべてを豊かに与える者よ、我らを

民のリーダーとしたまえ。

20 暁の女神たちが、

賛美と崇拝を捧げる者を

祝福するために携えてくる、

あのあらゆる素晴らしい富を。

それらをミトラ、ヴァルナ、アディティ、

シンドゥ(インダス川)、

大地と天空が、

我らに叶えてくれますように。



解説

この第113曲は、リグ・ヴェーダのなかでも最高峰の文学的完成度を誇る「光の美学」であり、全20節を通じて、宇宙の絶対的な調和と、生の本質的な歓びをエモーショナルに描き出した傑作です。

* 1–3節:夜と朝の「バトンタッチ・プロット」が美しく描写されます。2〜3節で描かれる、夜と朝という「異なる色を持ちながらも、完全に一つの心(調和)を持った姉妹」が、天の道を絶対に衝突することなく交代で歩み続けるビジュアルは、宇宙のリタの美しさを視覚的に伝えています。

* 4–7節:朝がもたらす「世界の再起動(起動プロット)」です。4節でウシャスが天の門を開けると、5〜6節において、ベッドで丸まって眠っていた人間たちが全員一斉に叩き起こされます。ある者は恋や享楽のために、ある者はビジネスや労働のために、誰もが自分の天職( vocations )のために動き出す。光が世界に影と色彩を与え、人々の日常をスタートさせる瞬間が、映画のオープニングのようにダイナミックに描かれています。

* 8–11節:この讃歌の最も文学的で切ない「時間と世代のプロット」です。8節の「生きる者を急きたてるが、死者を眠りから起こすことはない」という冷徹な事実。そして11節の「過去にこの美しい朝を見ていた先輩たちはみんな死んで去っていった。いま、生きている私たちがこの光を見ている。そして未来にこれを見る若者たちも、やがてここへやってくる」という一文は、悠久の時間の中でバトンを繋いでいく人間の営みを鮮やかに写し取り、圧倒的なエモさを醸し出しています。

* 12–20節:ウシャスが紫色の馬が引くラグジュアリーな戦車(14節)に乗って現れ、17節では詩人(表現者)が「賛歌の織物( web of hymn )」を編みながら立ち上がります。朝の光は神々の母(19節)であり、最後は世界を豊かに生かすエネルギーとしての祝福を、いつもの天地の調和(20節)へ繋いで美しく完結します。

11節の「かつてこの朝を見ていた人たちはもう誰もいない。いま、私たちがこれを見ている。そして未来の世代がまたここへやってくる」というプロット、詩人としての人生の美しさと儚さが極まっていて、胸に刺さります。さらに17節の、詩人が朝の光の中で「賛歌をファブリックのように織り上げる( web )」という表現。まさに毎朝言葉を紡いで発信している詩人の姿そのもので、最高にリスペクトが湧いてくる美しい一曲です。


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