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リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり  作者: はまゆう


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114/124

第1巻 第114讃歌 暴風神ルドラ讃歌

1 剛勇なるルドラ、

編み込まれた髪(お下げ髪)を持つ

英雄たちの主へ、

我らはこの賛歌を捧げる。

我らのすべての牛と人間が

無事であるように。

この村のすべての者が、

健康で、豊かに満たされるように。

2 我らに慈悲を垂れ、

歓びをもたらしたまえ、ルドラよ。

英雄たちの主たる汝に、

我らは敬意をもって仕えん。

我らの父マヌが、

祭祀によって勝ち得た

あのあらゆる健康と力を、

汝の導きのもと、

我らも獲得できますように。

3 諸神への崇拝を通じて、

気高きルドラ、勇敢な男たちの支配者よ、

汝の恵みを我らに授けたまえ。

我らの家族のもとへ、

至福を携えて来たりたまえ。

我が英雄たちが傷つかぬまま、

汝に聖なる供物を

捧げることができますように。

4 智慧ありて、遍歴する者、

激流の如きルドラ、

祭祀を完成させる者を、

加護を求めてここへ呼び寄せる。

彼が、諸神の怒りを

我らから追い散らしてくれますように。

真実に、我らは彼の

優しき恵みを切望する。

5 編み込まれた髪を持つ彼を、

我らは敬意をもって

天から呼び降ろす。

天空の野猪ワイルド・ボアであり、

赤く、眩き姿を持つ者を。

その両手あふれるほどの

至高の医薬クスリを携え、

彼が我らに保護と、隠れ家と、

安全な我が家を授けますように。

6 マルト神群(嵐の神々)の父たる彼へ、

この賛歌は捧げられる、

ルドラの威力を高めるために。

この、甘美のなかの甘美なる歌を。

不滅の者よ、死すべき凡人が食す

あの(日々の)糧を授けたまえ。

私に、我が種族に、我が子孫に、

慈悲を与えたまえ。

7 おおルドラよ、我らのうち、

大いなる者も小さき者も傷つけるな。

成長ゆく少年も、成人した男も

傷つけるな。

我らのなかの父親を殺すな、

母親をここで殺すな、

そして、我らの愛おしい

この身体そのものを、

ルドラよ、決して傷つけるな。

8 ルドラよ、我らの種族と子孫を

傷つけるな。

生きる者たちを、牛や駿馬を

傷つけるな。

汝の激しき怒りのなかで、

我らの英雄たちを惨殺するな。

供物を絶やさず捧げながら、

我らは常に汝を呼び求める。

9 まるで(群れをいたわる)牧夫の如くに、

私は汝に賛歌の群れを届けてきた。

マルト神群の父よ、

我らに幸福を授けたまえ。

汝の最も優しき慈悲は

祝福に満ちている。

それ故に、真実に、我らは汝の

救いの助けを熱望するのだ。

10 人や家畜を屠る

汝の矢(雷撃)を、

遥か彼方へと遠ざけたまえ。

汝の至福を我らとともに、

おお、英雄たちの主よ。

神よ、我らに慈悲を垂れ、祝福し、

その上で、二倍にも強固な守護を

我らに分け与えたまえ。

11 助けを求め、我らは言葉を紡ぎ、

彼を崇めた。

マルト神群に囲まれしルドラが、

我らの呼び声に耳を傾けんことを。

我らのこの祈りを、

ヴァルナ、ミトラ、アディティ、

シンドゥ(インダス川)、

大地と天空が、

叶えてくれますように。



解説

この第114曲は、リグ・ヴェーダのなかでも一際異彩を放つ「畏怖テラーと救済のダイナミズム」を描いた、非常にエッジの効いた傑作です。

嵐と暴風の神にして、後の大破壊神シヴァの原型となる「ルドラ神」に捧げられた全11節の讃歌のプロットが持つ圧倒的な美しさは、神の「圧倒的な恐怖(破壊の力)」をリアルに認めつつも、それを「至高の医薬(癒やしと生)」へと反転させようとする、人間の強烈なサバイバル精神にあります。編み込まれた髪を持ち、天の野猪いのししと恐れられる彼に、詩人がまるで「猛獣をなだめる優秀な牧夫」のように言葉のロープを投げかけていきます。


* 1–6節:ルドラの強烈なビジュアルと二面性が語られます。1節や5節で描かれる「編み込まれた髪( braided hair )」や「天の野猪( wild-boar of the sky )」という野生味溢れる荒々しい姿は、荒れ狂う自然そのもののプロットです。しかし5節では、その恐ろしい神が「両手いっぱいの至高の医薬( sovran medicines )」を携えて現れます。破壊の嵐を呼ぶ神こそが、疫病を払い生命を癒やす最高のヒーラーであるという逆転の構造が、実に見事な文学的カタルシスを生んでいます。

* 7–11節:ここには、神の圧倒的な暴力に対する人間の「リアルな生存交渉」が描かれています。7〜8節の「お願いだから、偉い人も子供も、お父さんもお母さんも、私たちの愛しい身体も家畜も、誰も殺さないでくれ!」というストレートな懇願は、他の優しき神々への讃歌にはない、本物の恐怖に裏打ちされた泥臭いリアリティです。だからこそ、9節で詩人が「私はまるで牧夫( herdsman )のように、あなたの怒りをなだめるためにこの歌の群れを連れてきたんだ」と言葉の芸術で野生の神をコントロールしようとするプロットは、表現者としての誇りに満ちていて圧倒的に格好良いのです。最後は、その恐ろしい雷撃の矢を遠ざけ(10節)、二倍のプロテクションを勝ち取って美しく着地します。

5節の「天のワイルド・ボア」と恐れられる暴風神が、実は「両手いっぱいのクスリ」を持って助けに来てくれるというプロット、ギャップがあって最高に魅力的な表現です。それに7節の「頼むから俺たちを誰も殺さないで!」という剥き出しの生存本能から、9節の「だから俺は牧夫のように歌であなたを飼い慣らすんだ」とクリエイティブの力でねじ伏せていく流れは緊迫感のある美しい構成です。


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