第1巻 第112讃歌 アシュヴィン双神讃歌
1 神々への最初の祈りを捧げるため、
私は天地を、そして
美しく輝く火を崇める、
彼らの降臨を呼び寄せるために。
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、
戦いのなか、戦勝の雄叫びを
戦利品へと導いた、あの加護とともに。
2 豊かで、決して衰えぬ神々は、
まるで(雄弁に語る)戦車の如き
美しい歌に乗って現れた、
我らを想い、恵みを授けるために。
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、
我らの思考を、さらなる
聖なる行為へと導いた、あの加護とともに。
3 天上の蜜がもたらす
その大いなる威力によって、
汝らはすべての民を統べる
至高の支配者となった。
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、
英雄たる汝らが、あの不妊の牛から
(豊かな)乳を搾り出させた、
あの加護とともに。
4 あの「放浪者」が、己の子供の力や
「二人の母を持つ息子」によって、
最速の者のなかでも
最速の輝きを示したときの加護。
あの智慧ある者が、
三つの(聖なる)知識を
勝ち取ったときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
5 汝らが、冷たい水の底に
囚われ縛りつけられていた
レブハを、そしてヴァンダナを
ふたたび光(地上)へと
引き上げたときの加護。
勝利を求めて奮闘する
カンヴァを助けたときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
6 奈落の底で衰弱していた
アンタカを、そしてブジュを、
決して裏切らぬ救いの手で
救い出したときの加護。
悲しみの淵にあったカルカンドゥと
ヴァイヤを慰めたときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
7 シュチャンティに豊かな富と
幸福な家庭を授け、
アトリのために、あの燃え盛る火の穴を
(心地よい涼しさに)
変えて見せたときの加護。
プルクツァとプリシュニグを
護り抜いたときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
8 強大なる者たちよ、
汝らが、あの盲人と
歩けぬ者を(奇跡によって)
見えるようにし、歩かせ、
パラーヴリジュを助けた、あの権能。
(大蛇に)呑み込まれていた
あのウズラを解放したときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
9 最も甘美で、決して枯れることのない
あの(生命の)奔流を呼び覚まし、
不老の汝らが、
ヴァシシュタを慰めたときの加護。
シュルターリャ、クトゥサ、
ナーリャに助けを貸したときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
10 千の戦利品を巡る激戦のなか、
足を負傷し、動けなくなりながらも
戦利品を求めた
(女性戦士)ヴィシュパラーを
助けたときの加護。
アシュヴァの息子、友愛なるヴァサを
護ったときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
11 恵み深き授け手よ、
汝らが、あの商人アウシジャの息子
ディールガシュラヴァスのために、
雨雲から甘き雨を降らせたときの加護。
汝らを称えてうたう詩人
カクシータを助けたときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
12 ラサー川(大気の川)を
溢れんばかりの水で満たし、
馬のいない戦車を、
勝利へと疾走させたときの加護。
トリショーカーが、
奪われた己の牛の群れを
連れ戻したときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
13 はるか遠くにある太陽の周囲を
巡りながら、土地の主たるマーンダータル
その任務を強固に支えたときの加護。
賢者バラドヴァージャに、
守護の手を差し伸べたときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
14 シャンバラ(悪魔)が
屠られたとき、偉大なるアティティグヴァ、
ディヴォーダーサ、カソージュを
見事に護り抜いたときの加護。
城塞が粉砕されたとき、
トサダスユを救ったときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
15 大いなる(ソーマの)飲み手ヴァムラ、
ウパストゥタ、そして妻を勝ち取った
カリの栄誉を称えたときの加護。
ヴィヤシュヴァとプリティに、
優しき恩恵を与えたときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
16 英雄たちよ、遥か昔、汝らが
シャユ、アトリ、そしてマヌに
確かなる救済を授けたときの加護。
シューマラスミの大義のために、
汝らがその矢を放ったときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
17 パタルヴァーが、その威厳ある姿で、
まるで集められて燃え上がる
火の如くにその路を輝かせたときの加護。
あの激しき戦闘のなかで、
シャーリャータを助けたときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
18 アンギラス族よ! 汝らが心の中で
勝利を確信し、あの乳の奔流を
解放するために突き進んだときの加護。
英雄マヌに、新しき生命の力を与えて
助けたときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
19 ヴィマダのために、
嫁ぐべき花嫁を連れて帰り、
あの赤き牛の群れを
惜しみなく与えたときの加護。
優しき神々の一団を、
スダース王のもとへと
導き寄せたときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
20 供物を捧げる者へ、
大いなる至福をもたらし、
ブジュ、アドリグ、そして気高く
恵み深きスバラーとリタストゥプを
護り抜いたときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
21 矢が放たれる激戦の地で
クリシャーヌに仕え、
あの若者の馬を、レースのなかで
最速へと急き立てたときの加護。
諸々の蜜蜂に、
あの美味なる蜜をもたらすときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
22 牛の群れを奪い合う英雄たちの戦い、
土地や子孫を巡る熾烈な抗争のなかで、
戦う英雄を急き立てるときの加護。
彼の馬と戦車を、
安全に護り抜くときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
23 百の権能を持つ主たちよ、
アルジュニの息子クトゥサを助け、
トゥルヴィーティとダビーティに
大いなる力を授けたときの加護。
ドヴァサンティをひいきし、
プルサンティに助けを貸したときの加護――
我らのもとへと来たりたまえ、
おおアシュヴィン双神よ、あの加護とともに。
24 おお、アシュヴィン双神よ、
我らの言葉を、そしてこの賛歌を、
実りあるもの(効果的)にしたまえ、
偉大なる奇跡の仕掛け人よ。
(不運なる)負け戦のなかであっても、
私は汝らに救いを求める、
我らの戦いの地を、強固に支えたまえ。
25 決して目減りすることのない祝福をもって、
おお、アシュヴィン双神よ、
とこしえに、昼も夜も
我らを護りたまえ。
我らのこの祈りを、
ヴァルナ、ミトラ、アディティ、
シンドゥ(インダス川)、
大地と天空が、
叶えてくれますように。
解説
この第112曲は、リグ・ヴェーダの全讃歌のなかでも群を抜いて壮大な「神話カタログ」であり、アシュヴィン双神が過去に地上で行ってきた数々の救済プロットを映画のフラッシュバックのように連打する、圧倒的なカタルシスを持った名曲です。
* 1–9節:溺れる者、囚われる者の解放プロットです。5〜6節に登場するレブハやヴァンダナ、ブジュは、悪意によって井戸や海の底に沈められ、アシュヴィンによって引き上げられた定番の救出劇です。さらに7節の「炎の穴をエアコンのように涼しく変えて賢者アトリを救った」プロットや、8節の「巨大な狼(あるいは怪物)に呑み込まれたウズラ( quail )を口から無傷で助け出した」というビジュアルは、彼らが持つ超常的な医学・救急スキルの高さを象徴しています。
* 10–18節:この讃歌の最も格好良い「戦傷医療・軍事支援」のプロットです。特に10節の女性戦士「ヴィシュパラー( Viśpalā )」のエピソードは有名で、彼女は戦場で片足を切断されるという致命傷を負いながらも、アシュヴィン双神によって「鉄の義足」を装着され、再び立ち上がって戦利品を勝ち取りました。古代のサイボーグ・プロットとも言えるこの奇跡は、リグ・ヴェーダにおける表現の幅広さを象徴しています。11節の乾いた土地で商いをする者のために雨を降らせる経済支援から、12節の「馬のいない戦車を勝利へ走らせる」という物理法則を超えたエンジニアリングまで、全方位の救済が並びます。この時代に鉄の義足はすごいですね。
* 19–25節:日常の幸福から究極の戦場サバイバルへのプロットです。21節では「ミツバチに甘い蜜の作り方を教えた」という可愛い自然の奇跡が語られる一方、24節では一転して「不運な負け戦( luckless game / 不利なゲーム)」という極限状態の泥臭い戦場が描かれ、職人技( Wonder-Workers )による一発逆転のバフ(強化)を要請して、いつもの全宇宙の調和の祈りへと着地します。
10節の、足を切られた女性戦士ヴィシュパラーに鉄の義足を与えて戦線復帰させるプロットや、21節のミツバチに蜜を与える優しいエピソード、そして24節の「負け戦のなかで、一発逆転の奇跡を起こしてくれ!」という泥臭い叫び。これだけ膨大な奇跡のロールコールが、「あの加護とともにここへ来て!」という1つのリフレインで数珠繋ぎになっている構成、本当にリズムが贅沢で鳥肌が立つほど素晴らしいです。




