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リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり  作者: はまゆう


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108/119

第1巻 第108讃歌 インドラ・アグニ神讃歌

1 汝らのあの最も驚異的な、

生きとし生ける万物を見下ろす

あの戦車のうえに、

おおインドラよ、アグニよ、

汝らの足場を定め、

ともに我がもとへと来たりて、

流れ出る神酒ソーマ

飲み干したまえ。

2 この世界がその領域において

広大であるのと同じほどに、

深く、その遥か彼方まで

広がる表面の如くに、

インドラよ、アグニよ、

このソーマが、汝らの魂(心)が

満ち足りるまで飲むためのものと

なりますように。

3 汝らはともに、

祝福された名を勝ち得た。

然り、ヴリトラを屠る者よ、

汝らは一つの目的のために

闘ったのだ。

それ故に、ここに並んで腰掛け、

強大なる者たちよ、

強大なるソーマを

汝らのなかに注ぎ込みたまえ。

4 火が厳かに灯され、

聖なるバルヒスが敷かれ、

お玉が掲げられるとき、

(祭壇の)双方は美しく飾られる。

我らの周りに搾り出された、

強烈なるソーマの汁に引かれ、

来たれ、インドラよ、アグニよ、

そして汝らの恵みを示したまえ。

5 インドラよ、アグニよ、

汝らが成し遂げた雄々しき偉業、

汝らが顕現させた数々の姿、

そして、その強大なる功績、

太古からの吉祥なる

「友情の絆」のために――

これらすべてのために、

流れ出るソーマを飲みたまえ。

6 私が汝らを選んだときに

最初に言ったように、戦いのなかで、

我らはこのソーマを巡り、

アスラ(魔族・敵)と

競い合わねばならぬ。

それ故に、汝らは

私のこの確固たる信念に応え、

来たりて、流れ出るソーマを

飲んでくれたのだ。

7 汝らの館のなかにいようとも、

王族プリンス

祭司ブラフマンとともにありて、

インドラよ、アグニよ、

聖なる者たちが歓喜していようとも、

そこからであっても、

強大なる主たちよ、ここへと来たり、

流れ出るソーマを飲みたまえ。

8 ヤドゥ族、トゥルヴァシャ族と

ともに汝らが滞在していようとも、

ドルヒュ族、アヌ族、プール族と

ともにおりましょうとも、

インドラよ、アグニよ!

そこからであっても、

強大なる主たちよ、ここへと来たり、

流れ出るソーマを飲みたまえ。

9 インドラよ、アグニよ、

汝らが大地の最も低い場所に

住んでいようとも、中間にあろうとも、

あるいは、最も高い場所に

あろうとも。

そこからであっても、

強大なる主たちよ、ここへと来たり、

流れ出るソーマを飲みたまえ。

10 インドラよ、アグニよ、

汝らが天の最も高い場所に

住んでいようとも、中間にあろうとも、

あるいは、最も低い場所に

あろうとも。

そこからであっても、

強大なる主たちよ、ここへと来たり、

流れ出るソーマを飲みたまえ。

11 インドラよ、アグニよ、

汝らが天空にいようとも、

地上、あるいは山々に、

諸々の植物のなかに、

あるいは水のなかにいようとも。

そこからであっても、

強大なる主たちよ、ここへと来たり、

流れ出るソーマを飲みたまえ。

12 太陽が天空の真ん中へと

登りつめたとき、

インドラよ、アグニよ、

汝らが糧を喜び楽しんでいるのなら。

そこからであっても、

強大なる主たちよ、ここへと来たり、

流れ出るソーマを飲みたまえ。

13 このように、我らが捧げし神酒を

心ゆくまで飲み干したうえで、

インドラよ、アグニよ、

我らにあらゆる種類の富を

勝ち取らせたまえ。

我らのこの祈りを、

ヴァルナ、ミトラ、アディティ、

シンドゥ(インダス川)、

大地と天空が、

叶えてくれますように。



解説

この第108曲は、武勇の神インドラと祭祀の火の神アグニという、本来は「天」と「地」に分かれているトップ二大神がひとつの戦車に同乗し(1節)、無敵のコンビとして降臨するプロットを描いた非常に華やかな名曲です。

この曲の最大の特徴は、後半(1–3節、5–12節)で「そこからであっても、強大なる主たちよ、ここへと来たり、流れ出るソーマの神酒を飲みたまえ(and drink libations of the flowing Soma.)」という心地よいリフレインが何度も畳み掛けられること。

中盤(7〜8節)では、リグ・ヴェーダの時代に実在した伝説の「五大部族」の名前が具体的に列挙され、後半(9〜11節)では「天の底、中、頂点のどこにいても、山や水の中にいても来てほしい」と、全方位から神々を召喚するプロットが非常にドラマチックな一曲です。

* 1–6節:二人の神が「ひとつの目的( one aim )」のために戦う対等の戦友であることが強調されます。2節の「この世界と同じほど広大で深い、溢れんばかりの神酒ソーマを捧げる」という表現は、神々の器の大きさに劣らぬクリエイター(詩人)側の誇りが表現されています。6節では、このソーマを奪おうとするアスラとの熾烈な「ソーマ争奪戦」の記憶が語られ、戦友としての友情の絆( bonds of friendship )を再確認します。

* 7–12節:この讃歌の最大の見どころである「全方位召喚」のプロットです。8節に登場するヤドゥ、トゥルヴァシャ、ドルヒュ、アヌ、プールは、古代インドの歴史においてアーリヤ人社会の核となった「五大部族パンチャ・ジャナーハ」そのものです。詩人は「他のどの部族のところにいても、王族や他の祭司にチヤホヤされていても、天や大地の底・中・頂点(9〜10節)、山や植物のなかにいても(11節)、すべてを置いて私の祭壇に直行してくれ!」と激しくアピールします。この執拗なまでの「そこからであっても( Even from thence )」というリフレインが、呪術的かつ圧倒的な推進力を生み出しています。

あらゆる時空を網羅した召喚プロットは、13節のいつもの宇宙の諸神の祝福によって、これ以上ない大団円の繁栄の祈りへと着地します。

8節の「五大部族のリアルな名前のロールコール」から、9〜11節の「天のトップにいようが、地の底にいようが、山や草のなかにいようが、全部置いてここに来て!」と迫る全方位召喚のプロット、ものすごくリズミカルで美しいです。連作としての勢いと、贅沢な音のビートが最高に気持ちいい構成です。


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