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リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり  作者: はまゆう


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109/120

第1巻 第109讃歌 インドラ・アグニ神讃歌

1 幸福(富)を追い求めて、

私は心の中で周囲を見渡した、

インドラよ、アグニよ、

頼れる親族や、兄弟が

いないものかと。

しかし、私とともにある加護は、

ただ汝ら二人のものだけ。

それ故に、私は救いを求め、

汝らのために

この賛歌を編み上げたのだ。

2 私は人々の間に伝わる

こんな噂を耳にしている。

「インドラとアグニの二人は、

役立たずの婿むこや、

妻の兄弟(義理の弟)よりも、

はるかに気前よく

富を分け与えてくれる」と。

それ故に、私は汝らに

このソーマの神酒を捧げ、

新しき賛歌を創り出す、

おお、インドラよ、アグニよ。

3 我らが(太古からの)絆の紐を

断ち切ることのなきように。

この請願いのりをもって、

我らは祖先たちの

あの偉大なる力を

勝ち取らんと奮闘する。

インドラとアグニのために、

あの強烈なるソーマ

歓喜に満ちている。

ここにあるボウルの膝元で、

二つの圧搾石が

(ソーマを搾りながら)

響いているのだから。

4 汝らのために、

この神聖なる器は、

インドラよ、アグニよ、

汝らを喜ばせるために、

歓喜してソーマを搾り出す。

吉祥なる両手と、

麗しき腕を持つ

アシュヴィン双神よ、急ぎ来たり、

水のなかのソーマに、

あの甘美なる蜜を

振り注ぎたまえ。

5 インドラよ、アグニよ、

汝らこそが最も強大であったと、

私は聞いている。

あのヴリトラ(悪魔)が倒され、

戦利品が皆に

分配されたあのときに。

常に躍動する者たちよ、

この祭祀に、

敷き詰められた草の上に腰掛け、

あの神酒ジュース

歓喜したまえ。

6 戦場で人々が雄叫びをあげる、

そのあらゆる男たちを凌駕して、

汝ら二人の神は、

大地と天空をも超える

偉大さを持っている。

汝らは、諸々の大河よりも、

連なる山々よりも、

そして世界のあらゆるものよりも

強大なり、インドラよ、アグニよ。

7 その両腕に雷電ヴァジュラ

握りしめる者たちよ、

富をもたらし、それを授けたまえ。

インドラよ、アグニよ、

汝らの権能をもって

我らを護りたまえ。

今や、これら(の光)こそが、

かつて我らの祖先たちが

(死後に)一つに結ばれた、

あの本物の「太陽の光線」なのだ。

8 城塞の破壊者、

その両腕に雷電を握りしめる者よ、

インドラよ、アグニよ、

我らの激しき戦いのなかで、

我らを救いたまえ。

我らのこの祈りを、

ヴァルナ、ミトラ、アディティ、

シンドゥ(インダス川)、

大地と天空が、

叶えてくれますように。



解説

この第109曲は、全8節のなかに、詩人の「孤独なハングリー精神」と「インドラ・アグニへの絶対的な依存」を配置し、後半では一転して太陽光線を用いた宇宙論的なカタルシスへと昇華させる、非常にドラマチックな構成の傑作です。

* 1–3節:非常に人間味のある泥臭い独白で幕を開けます。1節の「周りを見渡したけれど、頼れる親戚も兄弟も誰もいなかった。だからこの歌を書いた」というプロットは、表現者としての切実な原動力を描き出しています。さらに2節では、「ケチで役に立たない婿養子や、妻の小舅こじゅうとなんかよりも、インドラとアグニの兄貴たちの方がよっぽど太っ腹だ!」という、当時のリアルな家族間の愚痴のようなユーモラスな比喩( worthless son-in-law )を使い、神々への親密な甘えと信頼をストレートに表現しています。

* 4–6節:4節では、ソーマに甘い蜜を混ぜる調合のエキスパートとして、麗しい腕を持つ「アシュヴィン双神(医学と光の双子神)」がゲスト出演し、プロットに華やかな彩りを添えます。5〜6節では、インドラ・アグニのコンビが、世界のどんな山や川、そして戦場で吠えるどんな強靭な男たちよりも巨大であるという無敵のスケール感が畳み掛けられます。

* 7–8節:この讃歌の最も美しい文学的跳躍です。7節の「これこそが、かつて我らの祖先たちが一つになった本物の太陽の光線( very sunbeams )だ」という一行は、過酷な地上戦を戦う戦士たちが、空から降り注ぐ光の中に、先立った偉大な先祖たちの魂を見出すという、圧倒的にロマンチックで格好良いビジュアルプロットです。最後は、城塞を粉砕する二神の武勇を称えながら、いつもの宇宙の調和(8節)で美しく締めくくられます。

2節の「ケチな親戚の男どもよりも、インドラとアグニの方がよっぽど気前がいいぜ!」という、ちょっと皮肉の効いたハングリーなプロットや、7節の「空から差すこの太陽の光の中に、死んだ先祖たちがいるんだ」というエモーショナルなビジュアル、本当に筆力が尖っていて最高にセンス良いですね。

前曲の熱いビートとは一転して、「私には頼れる親戚も兄弟もいない、でもだからこそ私はこの歌を編んだんだ」という、孤独な詩人のハングリー精神と、神々へのどこまでもストレートな信頼を描いた、切なくも格好良いプロットでした。途中、アシュヴィン双神(4節)への可愛いバトンタッチがあるのも見どころです。

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